4期・72冊目 『空の中』

空の中

空の中

内容(「BOOK」データベースより)
200X年、二度の航空機事故が人類を眠れる秘密と接触させた。「変な生き物ゆうたわね?そやね?」―秘密を拾った子供たち。「お前を事故空域に連れて行く。話は現場を見てからだ」―秘密を探す大人たち。秘密に関わるすべての人が集ったその場所で、最後に救われるのは誰か。“電撃”が切り開く新境地。第 10回電撃小説大賞大賞受賞作家・有川浩待望の第2作。

『海の底』に続く自衛隊3部作の空にあたる物語。
普段は航空機が通ることのない四国上空高度2万mの空域。たまたまそこに至った飛行機が衝突する事件が立て続けに発生。そこには電波の波長によって人語を解すが他の生き物とは接触を望まない巨大な浮遊生物が存在することが判明。
そして同じ頃、高知の海岸にはクラゲに似た物体を見つけた高校生によって発見・引き取られることに。
大きい方は”白鯨”(愛称:ディック)と命名され、発見者でもあり白鯨対策本部の中心となって対話を行う事故調査官・春名高巳(たかみ)と女性パイロットの武田光稀(みき)。小さい方は”フェイク”と名づけて自宅で飼い始めた高校生の斉木瞬と幼馴染の佳江。主役の二組と共に飛行機衝突事件に関連する人々がおりなす青春ドラマ。


『海の底』と同様、ありえない生物を登場させておきながらも、白鯨/フェイクをめぐる人間たちの喜怒哀楽を情感たっぷりに描いているのでつい引き込まれます。
当然のことながらカップルとして成立することが予想される二組のの男女だけど、大人の方は仕事、子供の方は家族の問題を中心に置き、恋愛要素が適度に抑えられているのでストーリーに馴染んでますね。
それに加えて、感情が暴走しがちな若者たちに対して、宮じいこと宮田老人が言葉少なくとも深みのある言葉で温かく導いていくのがいい。彼の存在無しにはあの結末となりえなかったでしょう。*1


そういや、パニック小説として見ると、白鯨に対する対応に一度失敗して、ほぼ日本全国で大変なことになっているのですが、そのあたりは世論に後押しされた反白鯨団体のセーフ・ザ・セーフに象徴させるくらいで、記述があっさりし過ぎるのはちょいと気になりましたけどね。*2あえて手を広げず視点を絞ったので物語としてきれいにまとまったとも考えられます。

*1:作者あとがきによると、作品を書くきっかけになったモデルがいるらしい。文庫には後日談も収録

*2:航空事故による犠牲者より、「防衛型」白鯨による攻撃の犠牲者の方がはるかに多いんじゃ・・・