4期・61冊目 『M8』

M8(エムエイト) (集英社文庫)

M8(エムエイト) (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
28歳の若き研究者、瀬戸口の計算式は、マグニチュード8規模の直下型大地震が東京に迫っていることをしめしていた。十年前の神戸での震災、あのとき自分は何もできなかった。同じ過ちを繰り返したくはない。今、行動を起こさなければ…。東京に巨大地震が起こったら、高速道路は、地下鉄は、都心のビル街は、いったいどうなるのか。最新研究に基づいてシミュレーションした衝撃の作品。

著者の災害3部作の1作目。前に読んだ『TUSNAMI』の前作に当たります。学界においては非主流のコンピュータ・シミュレーションを用いた地震予知を研究している瀬戸口、防災を専門とする議員の秘書を務める亜希子、災害救助のエキスパートである自衛官・松浦。ともに高校生の時に阪神大震災に遭遇して家族を失い、その後の人生が大きく変わってしまった3人を中心にストーリーが進みます。


近い将来に来るであろう首都直下型地震。かつて阪神大震災という大きい犠牲を払った教訓を生かして対策を進めなければいけないところを、「地震関連は票にならない」と目先の利益に走る政治家たち。もっとも国民一人一人にしても、いつ来るかわからない地震よりも日々の生活の方が重要ですし・・・。
予知によって地震対策を行い、結果的に的中すれば被害が軽減できるが、空振りに終われば無駄な経済的損失を出して批難されてしまう、絶対とは言えない地震予知の難しさが前半のテーマになっていますね。
折りしも物語の序盤に東海地方にて中規模の地震が発生し、消防・自衛隊など人的リソースを集中させようとするところで、計算によって東京への大地震を予知した瀬戸口の活躍(傍目には暴走)が始まります。
本作では瀬戸口の進言を受けた漆原都知事の独断によって演習目的で人員配置がされ、それが功を奏して地震発生直後からの速やかな対処が可能となりました。その後も都知事はリーダーシップを発揮して、阪神大震災の教訓を生かした効果的な対応を次々と行います。*1そこは二つの地震について判断を迷い後手に回った内閣とは対照的に描かれており、いかにリスクを克服したリーダーの決断が重要かを伝えていますね。


地震によって起こる二次災害の恐ろしさ、都市における避難と救助と難しさなど、豊富な文献による災害シミュレーションとして読みがいがありますし、地震に対する認識を改めさせるには充分な力作だと思います。
ただ人物たちの会話の単調さや被災者の状況描写の乏しさなど読み物としての臨場感に欠けるきらいがあるのは確かですね。*2

*1:そこには阪神大震災の時に起こった様々な問題があったわけで

*2:この著者の他の作品にも共通するところ