4期・42冊目 『暗い森の少女』

暗い森の少女 (ハヤカワ文庫 NV 189)

暗い森の少女 (ハヤカワ文庫 NV 189)

アメリ東海岸の田舎町・ポートアーベロの代々領主の家柄であったコンジャー家で100年前に起きた父親が娘を惨殺するという忌まわしき事件。*1そして再び父親が次女に暴行を加えて精神障害を負わせるという事件が起きる。
その後、子供たちがコンジャー家の近くで行方不明になる事件が連続して発生し、ポートアーベロの住民は過去の二つの事件の関連からコンジャー家の現当主・ジャックおよび次女セーラへ疑いの目を向ける。


実は読んでいる方も最初はその構図に惑わされます。しかし次第に明らかにされる長女・エリザベスの奇行な振る舞いに戦慄するんですね。
ネタバレすれば、いわゆる憑依ホラー。彼女そっくりの肖像画*2・深い森・洞窟というまさにホラー的要素がキーとなって、悲劇が繰り返される。
極度の自閉症ゆえ親さえもてあます次女セーラを甲斐甲斐しく忍耐と愛情をもって面倒を見る、非の打ち所のなく美しい長女エリザベスが一変して暴力的になり野卑な言葉を叫ぶ。その移りようがすさまじい。
実はそのさまをよく読んでみると、霊の仕業だけとは思えないエリザベスの抑圧された本音のようなものが端々に見られるところが怖かったりするんですね。


そして最後、15年の時を経てようやく人並みの生活を送れるようになったセーラが、かつての記憶を取り戻した時・・・。予想通りとはいえ、救いが無い結末なのでした。


ちなみにamazonなどで見るとお薦めにケッチャムの『隣の家の少女』がよく出てきて、確かにタイトルも似たような感じだし狙っているな、という意図は読めるのですけど、印象的にはかなり違いますね。最近のホラー系作品と比べればグロさもほとんど無い(無いわけでは無い)と言っていいくらいおとなしめ。
本作の方が怪奇文学の伝統的な手法に則った、読者の期待に違わない"安心して読める"ホラーかもしれないです。*3

*1:草原でウサギを追った少女が森に迷い込んで・・・という冒頭シーンはまさに「不思議の国アリス」

*2:かつて父の手によって殺された少女のもの

*3:まぁ発表されたのが1978年という時期もあるかも