- 作者: 筒井康隆
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 1986/04/01
- メディア: 文庫
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内容(「BOOK」データベースより)
何ら起伏のない平隠な日々。しかし、この現代に真の安息はあるのだろうか?日常生活の中、精神的に肉体的にふと忍び寄るさまざまな不安と歪みを見事に捉えて抉る、13人の手になるホラー小説を一堂に集めた傑作集。
収録時(1960年代後半)に第一線で活躍していた作家から選りすぐりの怪奇作品*1を一つずつ集めただけあって、物語としての洗練された巧さと同時に後引く怖さを感じさせます。
平穏な日常が突如壊れてしまう、人が異形のモノに相対する、もしくは異形そのものに変化する結末。そんな話が中心となっていてまさにホラーマニア好みの作品集じゃないですかね。
以下、簡単な感想。
- 「さまよう犬」星新一
不思議な感じのショートショート。解説を読んでその発想のすごさに納得。
- 「蜘蛛」遠藤周作
昔読んだことがあるのだけど、改めて読むと蜘蛛に寄生された顔のグロテスクさに恐怖。そして一安心したところで蜘蛛がさっと逃げ去るラストが秀逸。虫嫌いな人が読んだら夢に出てきそうな内容。
- 「くだんのはは」小松左京
既読⇒http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20080325/1206454465
- 「甘美な牢獄」宇能鴻一郎
台湾のとある寺院の牢獄で暮らす男の告白。貧しい少年時代の回顧が作者得意の官能的な描写によって蘇る。少年時代は誰しも何らかの妄想を抱くのではなかろうか。
- 「孤独なカラス」結城昌治
狂気を発した少年の表情が夕暮れ時に集団で喚く都会のカラスをイメージさせて不気味。
- 「仕事ください」眉村卓
泥酔した時に叫んだ願望が本物の奴隷として出てきてしまう。そして迷惑なほどまとわりつき言う言葉が「仕事ください」。
やりきれないサラリーマンの末路。「笑ゥせぇるすまん」に出てきそうな話。
- 「母子像」筒井康隆
赤ん坊に買い与えた玩具が巻き起こした怪異現象。忽然と消えた母子を探す主人公の心情と言い、残酷な結末と言い、不気味さと悲しみが非常に印象に残る。
- 「頭の中の昏い唄」生島治郎
単調な校正作業、気に障る老人の声。凝視していた文字が蟻となって脳に入り込んでいく様からして度肝を抜く。実在しているのか定かでない少女を殺し、その屍体を自宅へ持ち込んで愛することで精神的な安定を得る主人公。しかし次第に腐っていき消滅の不安も抱える。危うさとエロチックさが際立つ。
- 「長い暗い冬」曾野綾子
「カチカチ山」の隠された結末と相まって、最後に明かされる事実が非常に恐ろしいとも言える。同時に救いの無さに愕然とする。
- 「老人の予言」笹沢左保
老人の懺悔と思いきや、予想を覆す驚きの結末。怖さは無いがとても不思議な物語。
- 「闇の儀式」都筑道夫
別荘に集う男女グループ。酒の席での創作怪談話が本物になって恐怖の体験を生むという話。部屋に飾ってあった絵が事実を表していたあたりは巧いなと思ったけど、最後は夢オチにせずに徹底的にやってくれた方が良かったかも。
- 「追跡者」吉行淳之介
いわゆるストーカーになりかけてどんな結末が待っているのか期待していたところで肩透かし。昔話でいうところの化かし系?
- 「緋の堕胎」戸川昌子
非合法な堕胎を営む産婦人科医院にある妊婦が駆け込んだことにより舞台は開く。長らく別居状態で冷えた夫婦仲のバランスを壊したのは院長が囲っていた愛人ではなく、冥い想いを抱いていた書生だった。
さて、捨てられた無数の赤子の怨念と憎悪に凝り固まった夫人の執念とどちらが怖いだろう?
巻末にある編者自身の解説を読むと今回のアンソロジーを編んだ経緯とか各作品の奥深さも味わえて更においしいのです(ただしネタバレあるので最初に読んではダメ)。