- 作者: 北村薫
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 1994/03/27
- メディア: 文庫
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出版社/著者からの内容紹介
「私たちの日常にひそむささいだけれど不可思議な謎のなかに、貴重な人生の輝きや生きてゆくことの哀しみが隠されていることを教えてくれる」と宮部みゆきが絶賛する通り、これは本格推理の面白さと小説の醍醐味とがきわめて幸福な結婚をして生まれ出た作品である。
2年くらい前に北村薫を知って少しずつ読んできましたが、ここでデビュー作にして「円紫さんとわたし」のシリーズ初作品を手に取ることになったわけです。これが日常の中に潜む謎を解く著者の原点なんだなぁ。
「わたし」は文学部に所属し、本と落語をこよなく愛する女子大生。日常の中で出会ったちょっとした不思議を落語家・春桜亭円紫に話していく中で解決していく短編集となっています。
発表された80年後半という時期を考えても、一般的な女子大生像とはまったく違う地味な「わたし」は文化的な教養という面では相当なものですが、19歳という年齢から考えたら精神的な幼さも目につくところ。変にすれていないと言えばそうなんですが。
もっとも今後の成長を描くためにわざとそうしたのかなって気がします。*1
さて、収録された5つの短編は身近な日常の中でも気になりながらも、きちんと確かめずに流してしまうようなテーマが主となっています。
それが円紫さんの手にかかれば意外な事実が浮かびあがってくるという筋書きで、大金が動いたり人が死んだりという刺激的な要素は無くてもきちんと推理小説としての形が整って、謎解きの面白さは充分伝わってくるのがいいですね。
好みとしては、子供心への影響と夢判断が興味深い割には意外な結末だった「織部の霊」、喫茶店の砂糖壷を巡って不可思議な行動を取る女性グループを「3人の魔女」に譬えるあたりが見事な「砂糖合戦」、それに表題作の「空飛ぶ馬」かなぁ。「空飛ぶ馬」は結末は「なぁんだ」ですけど、全体的な雰囲気が好き。
「胡桃の中の鳥」は夏の蔵王の風景が梅雨の時期に読むにはとても羨まし過ぎるし、「赤頭巾」は鮮やかな色使いの絵本のイメージよく伝わってくるのだけど、推理としては今ひとつ納得できませんでした。
*1:身体的な成長期である10代と違って、20歳前後は精神的に成熟していく時期でもあるし