4期・21冊目 『老ヴォールの惑星』

内容(「BOOK」データベースより)
偵察機の墜落により、おれは惑星パラーザの海に着水した。だが、救援要請は徒労に終わる。陸地を持たず、夜が訪れない表面積8億平方キロの海原で、自らの位置を特定する術はなかったのだ―通信機の対話だけを頼りに、無人の海を生き抜いた男の生涯「漂った男」、ホット・ジュピターに暮らす特異な知性体の生態を描き、SFマガジン読者賞を受賞した表題作ほか、環境と主体の相克を描破した4篇を収録。著者初の作品集。

初めて小川一水の短編集を読んでみたけれど、どれも粒揃いで充分楽しめました。個人的には十代の頃、小松左京の短編集で神秘の宇宙に魅せられた気持ちを思い起こすような満足感。
極めて特殊な環境に置かれた人間の心理を描いているため、重く硬くなりがちでありながら、特有のタッチで非常に読み易くなっているのがこの人の支持されるところじゃないでしょうか。


表題作である「老ヴォールの惑星」も短編の割にはスケールの大きさを感じさせる物語だし、望むものが現実とたがわないほどに具現化される(ただし宇宙人の手で)「幸せになる箱船」も面白いけれど*1、特に気に入ったのはこちらの2編。
最低限の水と食料はあるが人間不信に陥る闇の迷宮に投獄された人々の物語「ギャルナフカの迷宮」。
偵察機パイロットが遭難した未知の惑星では食料をはじめ環境的には恵まれているが、救助の見込みなくたった一つの通信手段が頼みである「漂った男」。
主人公をとりまく環境は正反対と言っていいほど違うけど、どちらも人間らしく生きることさえままならず、意思の弱い人間なら死を選んでしまうような状況。そこを主人公はある種の開き直りと周囲をうまく活用して切り開いていく様が感動的かつユーモラスでもあるんですね。「ギャルナフカの迷宮」のホクストル*2や「漂った男」の中尉*3など、主人公にとって重要な人物の描き方もいいんです。


できれば今後も短編を書き続けてほしいですね。無論、長編も好きだけど。

*1:地球の命運を握る宇宙旅行が主人公の恋愛話にスケールダウンしちゃったのがちょっと残念

*2:行動はともにしなったが、主人公が窮地に陥った際に2度も助けた男

*3:遭難当初からパイロットと交信し続けた救難基地の隊員