4期・17冊目 『死霊列車』

死霊列車 (角川ホラー文庫)

死霊列車 (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
東京と出雲市で発生したダーズ(致死的急性狂犬病症候群)が感染爆発、死者1800万人と推定され、政府の主要機関が札幌に移された。ダーズは人を咬むことによって鼠算式に患者を増殖させ、発病後の死亡率は限りなく100%に近い。国民はこのまま滅びてしまうのか。空路が絶たれ、青函トンネル閉鎖の時刻も刻々と迫る中、家族を失った15歳の鉄道少年、翔太はトロッコ列車「おろち号」を運転し北を目指す。タイムリミットホラー。

タイトルからしていかにもB級ホラー的なゾンビパニック映画を連想しますが、電力が途絶した中でも燃料と線路さえあればどこにでも行けるディーゼル列車に乗って、北へ脱出しようというストーリーが新鮮でした。路線図も用意されていて、物語の進行と同時に今どこまで進んでどれだけ行程が残っているのかチェックでき、主人公たちが辿った苦難の道のりを共感しやすいのです。


北海道を除く日本中が無法地帯になりつつあり、運行している電車が絶無とはいえ、「おろち号」による北行は無論すんなりいくわけがなく。進路を塞ぐ障害物、ポイント切り替えや燃料補給時に襲いくるダーズ患者(ゾンビ)群*1など。列車行ならではのアクションシーンの連続に息つかせぬ展開。後半は乗車客内部での感染発生の恐怖や独自にゾンビ狩と称して横暴を働く武装集団の出現、そして迫るタイムリミットとの戦いなど読者を飽きさせません。


更にこの作品の中で襲ってくる存在はあくまでも新種の病気に感染した人間であるので、対応できずに噛まれて感染する者が相次ぎ、彼らがきわめて危険な存在と広く認識される前に既に驚異的な数に増大していったわけです。
なので、登場人物たちは誰もが愛する家族に襲われ、中にはやむを得ず殺さざるを得なかったという深い悲しみを背負っています。それはある特殊任務につきながらヘリが撃墜されて「おろち号」に便乗し、戦闘を担う自衛隊員たちも同じ。もともと国民を守る義務を背負うために無条件に銃を向けられない葛藤もある。そのへんがただゾンビ=悪と戦う人間という単純な構図を免れていますね。
ストーリーとしては、始めが唐突であり、そして終わりがあっさりし過ぎている気がしましたが、メインの列車による脱出行はそれを補って余りある面白さであると思います。

*1:暗闇の中、まるで獣のようなうなり声をあげて迫り来るゾンビ大群の怖さ!