4期・7冊目 『奇術師』

内容(「BOOK」データベースより)
イングランドに赴いたジャーナリストのアンドルーは、彼を呼び寄せた女性ケイトから思いがけない話を聞かされる。おたがいの祖先は、それぞれに“瞬間移動”を得意演目としていた、二十世紀初頭の天才奇術師。そして、生涯ライバル関係にあった二人の確執は子孫のアンドルーにまで影響を与えているというのだが…!?二人の奇術師がのこした手記によって、衝撃の事実が明らかとなる!世界幻想文学大賞受賞の幻想巨篇。

各章が現代と過去の人物の視点で描かれる仕組みになっているのですが、アンドルーとケイトの章で謎が提示され、アルフレッド・ボーデンとルパート・エンジャの章でそれぞれの人生が詳しく語られる。そして再び現代に戻る結末。
アンドルーを呼び寄せたケイト、それぞれ奇術師として競いあった曽祖父の代にいったい何があったのか?
戸籍には無い双子の兄弟の呼ぶ声とか導入部からして興味深く、謎が謎を呼ぶ展開で先が気になってしまいます。二人の奇術師が衝突を繰り返し、互いに憎悪と妬みと羨望が入り混じってぐちゃぐちゃになるくだりは、ルパートとアルフレッドの見方と微妙に食い違う点も気になってしまう。
そこはアルフレッドの章において時間の流れがはっきりしないのに対し、ルパートの章は日記風かつ客観的な考察でもあるせいか、「そういうことだったのか」と腑に落ちる。華麗なマジックの種は意外に単純なことであるゆえにばれないように隠すとはよく言ったもの。人生を賭けた二人の騙しあいも手は込んではいてもカラクリを知って納得。その構成の巧緻には、まさに不思議なマジックを見せられた後の種明かしといった感じでしたね。しかし、ルパートがライバルに対抗するためにテスラという発明家に依頼した転送装置が二人の運命に重大な影響を与え物語は佳境を迎えるのですが、一転してSF的かつホラー的と言っていいでしょうか。
現代に戻ってアンドルーが見つけたものとは・・・。読後はなんだかいやぁな怖さが残りましたね。