- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1999/05
- メディア: 文庫
- クリック: 21回
- この商品を含むブログ (26件) を見る
- 作者: 小松左京
- 出版社/メーカー: 角川春樹事務所
- 発売日: 1999/05
- メディア: 文庫
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
上巻・内容(「BOOK」データベースより)
二十二世紀、火星で驚くべき発見がされた。火星の北極の永久氷床の下から、太古の宇宙人が残したと思われる“地上絵”が見つかったのだ!絵に秘められたメッセージの解読を進めるうち、木星の大気中に何か重要な秘密が隠されていると知った宇宙考古学者・バーナード博士は、「木星太陽化計画」主任の本田英二に、協力を要請するのだったが…。広大な宇宙を舞台に描く一大SF巨篇。
下巻・内容(「BOOK」データベースより)
火星で発見された地上絵に隠された“宇宙メッセージ”の解読が進む中、「木星太陽化計画」主任・本田は、太陽系開発機構から恐るべき報告を受ける―二年後、ブラックホールが太陽を直撃するおそれがあるというのだ!人類滅亡の危機を前に、木星を爆破させて、ブラックホールのコースを変えようという計画が浮上するのだが…。空前のスケールで描く宇宙SF巨篇完結。
もしかしたら映画版をテレビで放映していた時にちらっと見たかもしれないですけど、こうやって小説版を読むのは初めてでした。あ、あくまでも小説版(ノベライズ)であって、原作というわけじゃないのですよね、これ。
そもそも当時(1980年代初め)、海外SF映画大作が席巻する中で、日本でも本格的SF映画を作ろうと小松左京らが主導してプランを練り、映画製作と並行してよりバックグランドまで描いた小説版を連載していったという内幕が上下巻の解説にありました。
どうも映画としての興行成績はぱっとしなかったそうですが、小説の方は本格的SFとして素晴らしい作品と言えるのではないでしょうか。
既に約5億もの人々が太陽系宇宙に進出して、研究だけでなくあらゆる産業に従事して宇宙生まれの世代*1も育っている22世紀の未来。宇宙活動において、大は観測衛星や宇宙ステーションから小は個人が駆使するコンピューター等の機器類にしても興味をそそる描写であり、20年以上経った今でも古びないネタが満載です。
何よりも上巻において、火星で偶然見つかった宇宙人のメッセージを解読したことにより、木星の大気中に浮遊する宇宙船(というよりも宇宙都市といった規模)を探査するシーンが圧巻です。想像もつかないような過酷かつ壮大な気象*2の中を主人公らが探査艇で往く描写はまるで見てきたような迫力を見せつけられますね。
下巻は太陽系外への探査に出かけた宇宙船の事故により明らかになった脅威=接近するブラックホールに対して地球人類の脱出計画、そして新たに主人公ら木星に携わるスタッフにより木星を爆破させてブラックホールにぶつけて軌道を変えようとするJ.N(木星超新星化)計画がスタートし、否応無く高まる緊迫感とともに物語のテンポも速まっていきます。
後半から特に顕在化してくるのが、地球において人類が国家を越えて統一した未来であっても、今度は宇宙というフロンティアに対して人類がどう対処するかというテーマですね。主人公ら現場の人々の活躍だけでなく、政治絡みでどう動いていくかまでじっくり描いているところが著者らしく、物語に深みを与えているようです。*3
宇宙に進出した人々と地球にしがみつく人々の間には、まるで歴史上の植民地と本国のような関係を持たせていますが、そういった対立の図式は昔からSF作品でよく見られますね。まさに歴史は繰り返すというべきか。
今ひとつ曖昧な存在だったのが悪役(?)であるジュピター教団。もっとも教祖に祭り上げられていた男は何かをしでかそうという野心はまったくなく、一部のはねっかえりがひたすら宇宙開発を憎悪しテロに走る。そしてその中心メンバーには主人公の恋人・マリアがいるというロミオとジュリエット的な設定でした。
しかし黒幕に上院議員まで出てきた割には、ヒッピーの若者たちの暴走みたいな形で、英二やカルロスたちの超人的な活躍に比べたらどうも色褪せた存在でした。
読み終えた後、個人的には木星の大気中を何万年も浮遊していた宇宙船(ジュピターゴースト)、および宇宙人のメッセージがとても気になりました。本編では宇宙人たちがブラックホールの力を利用していたが、事故によって母星を離れざるをえなくなり、太陽系に来たことが示唆されています。下巻は人類の生き残りを賭けた戦いがメインになって、その謎を探っていたバーナード、ウイレムの二人の出番はぐっと減ってしまいましたが、もう少しジュピターゴーストおよびメッセージについての記述に割いても良かったのではないかと思いますね。