3期・76冊目 『怪談・奇談』

怪談・奇談 (講談社学術文庫)

怪談・奇談 (講談社学術文庫)

出版社/著者からの内容紹介
日本を深く愛しつづけたラフカディオ・ハーン小泉八雲)1890年に来日以来、日本の物語や民間信仰、風習等を通して、西洋至上主義に捉われることなく日本を理解しよと務め、数多くの秀れた作品を残した。本巻は八雲の作品の中でも「耳なし芳一」「轆轤首」「雪女」等、一般に親しまれている怪談・奇談42 篇を、気鋭のハーン研究者達の新訳で収録。さらに巻末にこれらの原拠30篇も翻刻した。

子供の頃に触れ、その恐ろしさと不思議さで今なお記憶に残る話の数々。
こうやって大人になって読んでもその魅力が色褪せることは無いです。もっとも著者の日本人観やら物語の背景など、違う視点で興味がわくことはありますね。
そこで、本編の後に原典との違いが解説されているのがなかなか興味深いです。著者は妻から日本の怪談・奇談を聞く時にそのまま本を朗読させるのではなく、あらかじめ粗筋を知った上で、あくまでも妻の記憶の中にある物語を聞いて、自分で咀嚼して話を再構成したそうです。
そうした試みによって、原典とは変わってしまったとしても物語として親しみやすく完成度が高くなって読み継がれるようになったのかもしれません。、


さて、収録されている作品について(多いので全ては紹介しきれないですが)。
有名な「耳なし芳一」「轆轤首」「雪女」が小泉八雲によるものだったことは昔読んだ本で憶えてましたが、「宿世の恋」(「牡丹灯篭」)といった有名な話までも手がけていたのですねぇ。*1それに「のっぺらぼう」こと「狢(むじな)」、司馬遼太郎で知った「果心居士の話」など粗筋だけでも知っていた話がいくつもありました。
収録されているものは、日本の怪談にお馴染みの化けた動物の話は控えめで、男女の愛憎のもつれによる話が多いですね。
「お亀の話」は妻が死に臨んで夫に後添えをもらわないでと約束し、結局迎えた新妻を殺してしまう。これは本来は約束を破った夫が悪いはずなのに新妻に憎しみが向かう点が心理的に興味深い。対照的に「和解」はかつて別れた妻の良さが後々になって身に沁みて、後悔して前の家を訪ねるが・・・。これも自分勝手な男の行動に対して、その後妻がどういう気持ちでいたのかを考えると何とも言えない結末です。
なんだか男が自分勝手だったり情けないことが多いのですが、異色な話としては「青柳の話」や「伊藤則資の話」が情緒溢れていてとても良かったです。


そして僧侶が主人公となる仏教的説話風もいくつも見られます。
例えば「食人鬼」や「ろくろ首」など。西洋の悪魔に対するように、やはり化け物に対峙するには僧職・神職が必要なわけでしょうか。
そんな中で短いけれど「常識」がウィットに富んでいて面白いですね。普賢菩薩の到来だとありがたがる真面目な学僧だったが、実は一介の猟師の目にはまったく違うものに見えた・・・。
ちょっと珍しいなと思ったのが、男同士の友情を描いた「菊花の約」。死して友との誓いを果たそうとする武士の姿が小泉八雲の琴線に触れたのかなって想像したりしました。

*1:昔テレビで見て、とても怖かったなぁ