3期・64冊目 『クラインの壷』

クラインの壺 (講談社文庫)

クラインの壺 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ゲームブックの原作募集に応募したことがきっかけでヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の制作に関わることになった青年、上杉。アルバイト雑誌を見てやって来た少女、高石梨紗とともに、謎につつまれた研究所でゲーマーとなって仮想現実の世界へ入り込むことになった。ところが、二人がゲームだと信じていたそのシステムの実態は…。現実が歪み虚構が交錯する恐怖。

ゲームブック*1がモチーフとなっていて、主人公が未知のゲームに招待されるという点では『クリムゾンの迷宮』に共通します。
ただ、『クリムゾン〜』があくまでもゲームに勝ち抜くことを主眼においたのとはだいぶ趣きが違います。本作では主人公がゲームテストに参加しているなかで、ゲームのシステムや関係者の行動などに不審な点が続々と出てきて、事情を調べていくというサスペンス的要素が強いです。
こういうのはいかに読者を作品の世界観にのせられるかが重要だと思うのですが、そこは簡潔明瞭な状況説明と主人公の感情の起伏が巧みでつい引き込まれます。
何もかも順調に進んでいたと思われた中、不審な電話があったり、一緒にゲームテストしていた少女の失踪。そこが実は大きな転換点なんですが、その時点で既に読者は”クラインの壷”にはまっているんですねぇ。


「ゲームと現実の区別がつかなくなってる」なんて識者のコメントとか、ゲームにはまりすぎて夢にまで出てくるとかそんな甘いもんじゃない。現実と信じて過ごしていた世界が実は作られた世界であったという驚き。これ、当人が精巧に作られた仮想現実のシステムに関わっているとわかっていながらも、現実と仮想現実の区別がわからなくなる怖さですね。決して納得のいく結末ではないけれど、これは後引きます。*2


実はこれquestion:1220783384で知って、ぜひ読んでみたいと思った作品でした。そういえば、ヴァーチャルリアリティ・システムが用いられて、かつ現実と仮想現実が交錯する内容ならば『ルサンチマン』という漫画が強い印象残ってますねぇ。

*1:これをリアルで遊んだことがあるのは私と同世代(30代)以上だろうなぁ。wikipedia:ゲームブック

*2:やはり七美と姫田が存在する方が現実とみるべきか