3期・63冊目 『白い部屋で月の歌を』

白い部屋で月の歌を (角川ホラー文庫)

白い部屋で月の歌を (角川ホラー文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
ジュンは霊能力者シシィのもとで除霊のアシスタントをしている。仕事は霊魂を体内に受け入れること。彼にとっては霊たちが自分の内側の白い部屋に入ってくるように見えているのだ。ある日、殺傷沙汰のショックで生きながら霊魂が抜けてしまった少女・エリカを救うことに成功する。だが、白い部屋でエリカと語ったジュンはその面影に恋をしてしまったのだった…。斬新な設定を意外なラストまで導き、ヴィジョン豊かな美しい文体で読ませる新感覚ホラーの登場。第十回日本ホラー小説大賞短編賞受賞作。

表題作は、取り付いている霊をはがす霊能力者のアシスタント(霊を一旦おさめるための白い部屋を作り出す憑坐(よりまし)役)であるジュンの視点でつづられる物語。そのパーソナリティのせいか、怖い話ではあるものの、全体的に穏やかな感じで読んでいて好ましいですね。
ジュンは自分自身では力の要る動きや歩行も満足にできず、その姿を見た者は一様に驚くという記述から、何か重い身体的理由があるのだろうかと伺わせます。
そして初めて生きている人間の霊魂を本人の体に戻す仕事の際に、ジュンがその少女に恋してしまったことがきっかけになって話が急展開し、すべてが明かされます。
いわゆる負の念が強い霊の怖さと同時に、自らを知ってしまったジュンが少女を想いながら死に向けて歩く様はとても悲しく印象に残る話でした。


もう一編は「鉄柱(ハガネノミハシラ」。
冒頭、辺鄙な田舎に引っ越してきた若い夫婦ということで、独特な風習というか因習に驚き恐怖するという展開を想像していて、大筋において間違ってはいなかったのですが、方向性がだいぶ違っていました。
(以降、ネタばれになりますが)人生でもっとも満足を覚えたタイミングでその後予想される不幸な未来を避けるために鉄柱によって命を絶つという習慣。人生に絶望して命を絶つのとは違うわけで、現実においても高齢入院患者の尊厳死などの問題もあって、少しは理解できなくはないです。
ただ本編の中で若い人までが達観したように命を絶つことが、ちょっと受け入れにくかったですね。*1

*1:そこは個人的な理由もあるのですが