3期・59,60冊目 『信長の棺(上、下)』

信長の棺〈上〉 (文春文庫)

信長の棺〈上〉 (文春文庫)

信長の棺〈下〉 (文春文庫)

信長の棺〈下〉 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
本能寺の変後、信長はどこへ消えたか―。光秀謀反にちらつく秀吉の陰謀。阿弥陀寺の僧侶が握る秘密の鍵。そして、主人公・太田牛一が最後につかんだ驚愕の事実とは。日本史最大の謎に挑んだ本格歴史ミステリー。

最近文庫化されたことを知り、早速購入して読んだ作品でした。太田牛一と言えばこの時代の第一級の史料である『信長公記』を記した人物であり、彼を主人公にして信長の死の謎を探るという、日本史とりわけ戦国時代に興味ある人ならばかなりそそられる内容ですからね。
本能寺の変後、尊敬する織田信長の生涯を後世に残る記録として残したいという熱意、そして信長に比べてどうしても好きになれない秀吉という新たな権力者どう付き合うかという牛一自身の苦心が描かれていて、なかなか興味深い切り口で描かれる物語ですね。史家ならではの関係者への取材や史料保存のための書庫作りの苦労なども面白いです。


本能寺の変前後のいくつかの謎に対する著者の答えについては、歴史好きならば既知のものもあれば、逆に暦に関する認識のように意外なものもありました。
そこで肝心の信長の最後およびその遺体がどうなったのかという疑問が最終的に明かされるのですが、どうも本格歴史ミステリーというより2時間もののサスペンスドラマ風*1なのがちょっとどうなのかなと思いましたね。女しのびとのロマンスの末ではなく、牛一自身が同時代人を丹念に調べていった末に辿り着くようにしたほうが良かったかも。


それから牛一をして、実際に参加してないゆえに全体像を把握できない桶狭間の戦いに関する記述に苦心する様があって、いったいどうやって探っていくのかが関心を持って読んでいたのですが、秀吉による謀略が明かされた本作と『信長公記』の内容が矛盾するような気がするのですが、そこは気になったままでした。
ちょっと面白いなと思ったのが、牛一の協力者だった人物が実はこっそり清書前の『信長公記』を写しとっていて、それがどうやら前野氏に繋がりあったというネタ。『前野家文書』*2が背景にあるのでしょうかね。もっとも、あちらは昭和に入ってから作られた偽書という説も有力だけど。


続編として『秀吉の枷』『明智左馬助の恋』とあり、3部作となるようです。本作の秀吉・明智左馬助(秀満)の描き方からして結構楽しめそうな気がするのでこちらも読んでみたいですね。

*1:事情を知る人物の長い告白

*2:wikipedia:武功夜話