- 作者: 海音寺潮五郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/12/10
- メディア: 文庫
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今回の悪人は、以下の六人。
読む前の印象では、梶原景時*1・北条高時のように悪評はあっても、これと言って悪人に思えた人物は見当たりませんでした。
あと藤原兼家(藤原道長の父)・高師直は、どういう人物だったかよく憶えていなかったです。
実際のところ、中世という時代は源平争乱を除けばあまり興味を持っていなかったのですよね。平安文化は確かに華々しいけど政治は貴族の権力闘争に明け暮れていただけだし。
まぁ、個人的に徐々に面白みが出てきたのは南北朝時代でしょうか。
本作を読んでみて、実は中世での悪人というかスケールの大きさで悪い影響を時代にもたらせたということでは、後醍醐天皇かなぁと思うようになりました。*2
楠木正成・正行親子のようなわずかな例を除くと、登場する人物達が揃って権威を何ほどにも思わない我欲が強かった時代だと筆者も述べています(高師直も代表格)。
後醍醐天皇はその我侭で騒乱を長引かせた張本人で、臣や息子達を使い捨てにして当然という心情の持ち主です。
身分の高い家に生まれたら、人の奉仕を受けるのが当たり前に育つので、仕方無いといえば仕方ないですが、やっぱり好きになれないです。
まぁ、歴史上の人物が行ってきたことを評価するにしても、現代ではなく当時の社会背景や倫理観を元にしなければ見誤ります。
そのあたりを資料を元に丹念に記述してくれるのが本書なので非常に参考になる史伝であると言えましょう。
最後に筆者のあとがきを引用します。
「周到な検討を欠いた放恣な思いつきによって人を褒貶して新解釈と称するような態度は、ぼくの最もきらいなことです。」
「もしその人々を地下におこしてきて、その人々と対決しても、ぼくは恥じずに顔を合わせることが出来る自信があります。」
史伝を書く態度として、至極まっとうな態度ですね。物書きのプロとは比べようがないですが、歴史について書くことがある以上、少しは見習いたいものです。