- 作者: 海音寺潮五郎
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2006/11/10
- メディア: 文庫
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やはり歴史上で客観的に見ると、悪人とされる方が良くも悪くもエピソード豊富で人間臭い魅力が溢れているのかもしれません。実際に関わりあいがあるとなると、全く話が別ですが。
ここで紹介する海音寺潮五郎の『悪人列伝 古代編』で取り上げる人物は、本当に悪徳であったかどうかは別として、世間一般に悪人と言われる人たちです。
読む前の印象で、この中で本当に悪人らしいのは蘇我入鹿と藤原薬子くらいでしたね。
伴善男は権力闘争に敗れた哀れな印象があって、藤原氏の方がより悪辣な気がします。
皇位を狙った弓削道鏡というのも後世作られた印象。
将門・純友も朝廷からすれば叛逆を企てた悪人ですが、どうも時代背景とかなりゆきを見ていると、暴れん坊ではあっても悪者に思えない。
信頼できる史料も少なく、それだけに後世に作られた人物像がまかり通るのが古代の人物です。
本作では史伝ということで、著者が史料を丹念に読み、かつ足りないところはわからないままで仕方ないとしても、できるだけ当時の人間関係や歴史的事情を汲んで想像で補ってくれています。
そのあたりが一番の読みどころかもしれません。*1
ただ史伝だけに小説的な面白さより、歴史を淡々と追っていく記述が多いので、人によっては退屈する部分もあるかも。蘇我入鹿や弓削道鏡の章では、事前の歴史描写が長くて、いつになったら本人は出てくるんだ?って思いましたしね。そこで楽しめるかどうかはその人次第。
それでもなかなか掴みづらい古代の人物をよく知るには、歴史好きとしてうってつけの作品であると思いますよ。
個人的には、出世欲の塊でライバルを蹴落とすには手段を選ばなかった伴善男とか、ある意味とても女性らしかった孝謙天皇(弓削道鏡の章)、更に三男二女の母でありながら平城天皇(9歳年下!)を虜にして、一時的にとはいえ権力を欲しいままにした藤原薬子*2が特に興味深かったですね。