85,86冊目 『夏雲あがれ(上・下)』

夏雲あがれ(上) (集英社文庫)

夏雲あがれ(上) (集英社文庫)

夏雲あがれ(下) (集英社文庫)

夏雲あがれ(下) (集英社文庫)

冒頭の3人の若武者に、どこかで読んだことあるな、と思いつつ読んでいけば、同氏著作の『藩校早春賦』の続きじゃないか!とやっと思い出したりして。
あの頃まだ15,6だった新吾・太郎佐・仙乃助は本作ではもう二十歳を迎えて、それぞれの道を歩きつつあるわけです。


今回、舞台を江戸に移して、未だ藩主への野望を捨てない蟠竜公(現・藩主の伯父)の一味の企みを打ち砕くべく、新吾達が大暴れ。剣戟や陰謀の謎解きに父子の愛情やもちろん友情ドラマまで盛り込んだ贅沢な青春時代劇です。
文庫で上下巻となっていますが、話はテンポよく進むのであまり長さは感じませんでしたね。


ひたむきでまっすぐな新吾の行動には、友人たちだけでなく、江戸で巡りあった町人・花魁、そして大身の旗本まで魅了されてしまうのですが、たまにはこういう爽やかな物語もいいもんです。
この主人公の唯一の弱点は女性ですかね。心中密かに想いを寄せる隣家の志保に対してはもどかしいほどです。
彼女も憎からず想っていることは読者としては想像つくのですが、一向に2人の仲は進展しないまま。


ネタばれしてしまうと前作からの陰謀の黒幕・蟠竜公は最後の最後に死んでしまいましたが、読者にとっては彼女が望んだ土産の真意が明かされていないので気になったままです。
春・夏ときて次に秋編が来るとしたら、今度は新吾の仕官と婚儀に絡んだ話になるのかなぁ、と思うのですが。