55冊目 『ジャガーになった男』

ジャガーになった男 (集英社文庫)
作者: 佐藤賢一
出版社/メーカー: 集英社
発売日: 1997/11
メディア: 文庫

仕事帰りに立ち寄った書店にて、本当は『傭兵ピエール』や『二人のガスコン』を探していたのですが、見つけられず代わりに購入したのが本書でした。
説明によると、第6回小説すばる新人賞受賞作に大幅加筆とのことです。


佐藤賢一というとフランス史を舞台にした作家のイメージがありますが、本作は支倉常長遣欧使節に加わった奥州武士を主人公に、斜陽のイスパニア帝国と植民地開拓期の南米ペルーが主な舞台となっています。


武士に通じるイスパニアのイダルゴ*1の心意気に共感し、現地の友人の妹に惚れた弱みもあって、故郷を捨ててイスパニアで生きることを決意した主人公・斉藤寅吉。
遅れてきた戦国武士・寅吉のキャラがなんともいいですね。剣は強いわ、兵法にも詳しいわで、戦場では鬼神の如きの活躍を見せるのに、不器用で出世できないタイプ。
いつになっても、どこにいても、男の夢と惚れた女との狭間で大真面目に悩んでしまう。


権謀と情愛に翻弄された人生の幕引きの場面、友に後事を託し、武士の意地を貫いた最後のシーンが印象に残ります。
こういう人物の内面をテンポよく書けること、そして欧州であろうが、南米奥地のインディオの部族であろうが、人間どこでも似たようなことをしているものだという視点が、馴染みの無い異国を舞台にした話でもすんなり入っていける佐藤賢一の良さなのかなぁと思った1作でした。

*1:「イダルゴとは、イホ・デ・アルゴ(ひとかどの人物の息子)のこと。気風、態度、文化を日本になぞらえて言えば、これ、即ち武士そのものである。」本文より