12冊目 『真田騒動-恩田木工』

真田騒動―恩田木工 (新潮文庫)
作者: 池波正太郎
出版社/メーカー: 新潮社
発売日: 1984/09
メディア: 文庫

再読である。買ったのは5年以上も前で、おそらく「真田」の名に惹かれて買った憶えがある。それまで真田と言えば、昌幸・信繁(幸村)及び十勇士に関するものばかりであったので、読んでいる最中は新鮮な思いであった。そもそも恩田木工(民親)という人は名前しか知らなかったし。


本作品は収められている短編は上田〜松代時代の真田信之(信幸)の頃の話が2つと、主に幕府の課役などにより藩の経済が破綻した中期の頃の話が2つである。副題にあるように3番目の恩田木工とによる藩政立て直しの話が長いというかメインでありそうだが、どちらかというと私は1、2番目を読んで信之(信幸)の治績と彼の人柄に魅せられた。


父と弟による戦働きにより、すっかり幕府に目をつけられてしまった真田家は、家康没後にいっそうの厳しさで締め付けていき、凡庸な藩主では即刻取り潰しの目に会うのは必定である。それに盲従するだけでなく、領民に慕われるような藩政を行い、家中の結束を図る。戦国の世からの意識の変換を行い、見事な統治をやり遂げた。
更に3代目後継ぎ争いの際には既に引退してたが、老齢の身を押して家中を収めた。その時に既に90歳に達しようかという年齢だったのだから恐れ入る。
そういう面では、昌幸・信繁(幸村)に比べると知名度は低くも能力的にまったくひけをとらない人物である。むしろ武断政治の方針をとる幕府を相手取って藩を存続させた手腕では、父の才能をしっかりと受け継いでいるのではないか。
地道で堅実なだけの人物であった印象がだいぶ変わった作品である。


さて、表題の「真田騒動」である。はっきり言って恩田木工はこれといって特別能力が優れた人物というわけでも、藩を劇的に救う奇策をしたというわけでもない。ただ、それまでの悪政を改め、領民や藩士の立場に立ち率先して公明正大な政治を行っただけである。
これが意外に難しいということは、歴史だけでなく現代の政治を見てもわかる。恩田木工の視点で書かれたこの作品を読んでも、彼はいたって普通の人物であり、普段は温厚であるが、心の底に秘めた芯の強さが感じられる。
贔屓目に見ても、恩田木工の時代に藩経済は劇的に改善はしなかったが、彼の行った最大の業績は、藩の意識改革であったと言える。とても好感が持てた人物である。