13期・26冊目 『狙われた女』

狙われた女 (扶桑社ミステリー)

狙われた女 (扶桑社ミステリー)

内容(「BOOK」データベースより)

気だるい平日の午後。職場でいつもと変わらない時間を過ごす女性。だが、そんな彼女たちのもとに、銃を手にした暴漢がいきなり襲ってきた…。この冒頭部分を踏襲して三人の奇才がそれぞれ物語をつくりあげた。若い頃の自分の不遇な経験への憤怒を作品にぶつけるケッチャム、映画級の大アクションを見せるレイモン、そして数々のパロディをストーリーに織り込むリー。アメリカの三大バイオレンス作家がその持ち味を発揮して描き上げたスプラッター・ホラーの傑作アンソロジー、ついに登場!

『隣の家の少女』を始めとして鬼畜作家として名高いジャック・ケッチャム『殺戮の<野獣館>』リチャード・レイモン。もう一人は知らない作家だけど、何やら期待できそうな内容なので手に取ってみました。
銃を持った暴漢が若いOLを襲うという共通設定があるようです。


「シープメドウ・ストーリー」ジャック・ケッチャム
主人公はしがない編集者兼作家希望で、飲みに行った先でウインドゥ越しに若い女の肢体を眺めては気を紛らわす。
ある日、別れた妻から借金返済の請求が来た上にタイミング悪く仕事も解雇されてしまうという踏んだり蹴ったりの中で、ついに爆発して銃を片手に元妻の元へと乗り出していくが・・・。
まだ有名になる前の不遇な時代を下敷きにしたという前書きから考えると、被害妄想癖やらルサンチマンぶりも納得できる内容ですな。
短編ということもあって、内容は地味かもしれませんが、どんでん返しのラストが面白かったです。さすが時々乱射事件の起きる銃社会アメリカらしいといいますか・・・。


「狙われた女」リチャード・レイモン
突然オフィスにかかってきた電話。シャロンが手に取ると「おまえをいただくぜ」の一言。
ただのいたずら電話かと思いきや、すぐにショットガンを手にした男が乱入してきて、容赦なく同僚たちを射殺していく。
とっさの機転で火をつけたゴミ箱を投げつけて、男が怯んでいる間に逃げ出したシャロンの運命はいかに?
なぜ自分が襲われるのかがわからないまま、映画『ダイハード』を思わせるような息詰まるアクションシーン。それに男の突き抜けた傍若無人ぶりが良かったです。
いくらビル内とはいえ、銃声を聞きつけて来る者がいなかったり、男が逃げおおせたことなどご都合主義な点は見られますが、それも最後の爽快なシーンのためと思えばこそでしょう。


「われらが神の年2202年」エドワード・リー
設定こそはるか未来の宇宙船の中だけど、登場人物の名前さえも同じで「狙われた女」とそっくりなシーンで始まります。
あとがきによると、そもそも合作を想定したのが、別々のアイデアで分けて執筆することになったのか。
それゆえ冒頭だけは同じだけど展開は大いに異なり、世界観も独特の宇宙SF謀略もの。ただしエログロがふんだんに盛り込まれているのが特徴でしょうか。
ユニークだなと思ったのはクリスチャン連合という極めて宗教色の強い国家でヒロインのシャロンは意図的に性知識から隔離されて育ってきたというのに、他の乗務員は普通に恋愛(同性愛さえある)してセックスしていること。
いつになっても人間の感情は変わらないということですね。
謎のテロリスト組織が信奉する悪魔の正体に関しては、そう来たかと驚かされましたね。