95冊目 『闇の本能寺』

先週末、積読本が消え、注文した本も遅れている状況ということで、久しぶりに戦国ものを読もうと本棚から引っ張ってきました。
戦国時代最大の謎と言ってもいい本能寺の変を書いた小説ベースの作品です。


織田信長に敵対する勢力側からの視点という点*1を除けば、特に奇をてらった内容というわけではありません。
特徴としては、ある意味信長を罠にはめた人物がキーになっていますね。狙撃や毒殺も難しいということで、本能寺の変は大掛かりな仕掛けの結果であったのだろうということです。


現代からの視点で言えば、信長は旧弊を打破して新しい時代を切り開いた改革者でありますが、当時の既得権益者からすればただの迷惑な破壊者だということが理解できます。中には一見味方のようでいても動き次第でいつでも裏切るという者さえいるという点で、最初から敵であるより厄介です。
そう考えると、日本の歴代総理が「改革、改革」と叫んでも実際はなかなか改革が進まない理由がわかるような気がします。現代ではそう簡単には信長にはなれないですから。

*1:信長の悪い点が強調されているので、信長ファンには向かないでしょう

96冊目 『悪人列伝 中世編』

古代編に続けて買ってみました。
今回の悪人は、以下の六人。

読む前の印象では、梶原景時*1北条高時のように悪評はあっても、これと言って悪人に思えた人物は見当たりませんでした。
あと藤原兼家藤原道長の父)・高師直は、どういう人物だったかよく憶えていなかったです。


実際のところ、中世という時代は源平争乱を除けばあまり興味を持っていなかったのですよね。平安文化は確かに華々しいけど政治は貴族の権力闘争に明け暮れていただけだし。
まぁ、個人的に徐々に面白みが出てきたのは南北朝時代でしょうか。
本作を読んでみて、実は中世での悪人というかスケールの大きさで悪い影響を時代にもたらせたということでは、後醍醐天皇かなぁと思うようになりました。*2
楠木正成・正行親子のようなわずかな例を除くと、登場する人物達が揃って権威を何ほどにも思わない我欲が強かった時代だと筆者も述べています(高師直も代表格)。
後醍醐天皇はその我侭で騒乱を長引かせた張本人で、臣や息子達を使い捨てにして当然という心情の持ち主です。
身分の高い家に生まれたら、人の奉仕を受けるのが当たり前に育つので、仕方無いといえば仕方ないですが、やっぱり好きになれないです。


まぁ、歴史上の人物が行ってきたことを評価するにしても、現代ではなく当時の社会背景や倫理観を元にしなければ見誤ります。
そのあたりを資料を元に丹念に記述してくれるのが本書なので非常に参考になる史伝であると言えましょう。
最後に筆者のあとがきを引用します。

「周到な検討を欠いた放恣な思いつきによって人を褒貶して新解釈と称するような態度は、ぼくの最もきらいなことです。」
「もしその人々を地下におこしてきて、その人々と対決しても、ぼくは恥じずに顔を合わせることが出来る自信があります。」

史伝を書く態度として、至極まっとうな態度ですね。物書きのプロとは比べようがないですが、歴史について書くことがある以上、少しは見習いたいものです。

*1:判官びいきからすれば、憎たらしい人物だけど源頼朝を頂点とする武家政権に忠実たらんとした結果ですし。でも頭の良さを鼻にかけて他人を見下すような嫌われるタイプだったらしいですね。

*2:天皇の地位を狙っていたという足利義満も欲望のままにやっていたことはスケールでかいですが