91冊目 『愛のひだりがわ』

愛のひだりがわ (新潮文庫)

愛のひだりがわ (新潮文庫)

時をかける少女』『七瀬シリーズ』『わたしのグランパ』などに続く筒井ジュブナイル物です。
ヒロインである少女・愛は幼い頃の怪我がもとで左手がまったくきかなくて、それでも母の死をきっかけに、学校さえ満足に通わせてもらえない養親の家を出て行方不明の父を探す旅に出ます。
なにぶん物語の語り手は12歳の少女ですので、世の中の様子はもどかしいくらいはっきりしませんが、どうやら治安がめっきり悪化した近未来の日本が舞台の模様。それでいて一昔前風の暴走族やらチンピラが出てきたりするのが筒井作品らしさかもしれません。


旅の供として、犬*1だったり途中で出会ったご隠居だったり、左手が利かない愛の左側を常に守ってくれる存在が出てくるのですね。それがタイトルになっているわけです。
どんな時でも希望と向上心を失わずに前向きに生きる姿には、愛自身の持つ芯の強さを感じます。それでいて成長するたびに美しくなっていくのはお約束。
その世界観とかヒロインの造形には『七瀬シリーズ』の火田七瀬に通じるものを感じました。*2


最後には、ヒロインと仲良かった少年・サトルを通じて、成長することとはある意味失うことであるというメッセージが込められいます。。
ただいくつかお話の中でわかりづらい点とか唐突な終わり方とかで、他のジュブナイルというかライトノベルなどとはちょっと毛色が違う作品のような気がしました。

*1:なぜか愛は犬と会話できる

*2:作者の理想のタイプの一つなのかもしれん