82,83冊目 『ローマ人の物語 (27)〜(28) すべての道はローマに通ず』

ローマ人の物語 (27) すべての道はローマに通ず(上) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (27) すべての道はローマに通ず(上) (新潮文庫)

 
ローマ人の物語 (28) すべての道はローマに通ず(下) (新潮文庫)

ローマ人の物語 (28) すべての道はローマに通ず(下) (新潮文庫)


それまでとはガラリと趣向を変えて、時系列にこだわらずに「すべての道はローマに通ず」*1とまで言われたローマ街道と各地に作られ、中には現代まで使用されている橋について(27巻)。そしてもう一つのハードなインフラの代表であるローマ式水道とソフトなインフラである医療・教育などについて(28巻)テーマを絞って言及しています。


もし大学生だったとして、例えば一般教養の授業で世界史を取っていて、「ローマ帝国の特徴についてまとめよ」なんてテーマのレポート課題が出たとしますな。別に塩野七生のだけでなくいろいろ著作が出ていますが、さてローマ帝国の歴史を読んでみようとすると、非常に長いのでうんざりするでしょう。


さぁ、そこでこの『ローマ人の物語』27,28巻の出番です。
インフラストラクチャー(社会資本)ひいては人間らしく生きる為に何が大切か、というローマ人の考え方を理解するのと、世界帝国にまで発展したローマが多民族国家として長く安定できたその理由までよくわかります。
史書のように過去から順番に論じていくのではなく、同時代の支那帝国まで視点を伸ばして比較するのもユニークです。


うん、ちょうど今、中国史に関する本を読んでいるのですが、中国とは都市というとたいてい高い城壁で囲んであったのですね。戦争時の防衛だけでなく、盗賊やら異民族やらが襲ってくる場合の対策として。*2
あと有名な万里の長城ですよね。北方の異民族対策として最初は戦国時代に作られましたが、その後も延長されています。長年、匈奴やら蒙古やら女真やらに苦しめられてきた漢民族の対抗策ですわな。
それに対して、ローマ人がとった手法というのは「閉ざす」のではなく、「開く」方。*3どんどん街道を敷いて、自由に行き来させてしまう。文明化によって生活が向上すれば、何も人から奪うこともありません。カエサルによってローマに組み込まれたガリア人がいい例です。


考えてみれば、いわゆる同化政策を奨励し、市民権を与え、後には属州出身の皇帝まで生まれたローマに対して、世界の中華を称し周りは夷として見下した支那という対照的な面が見られます。
世界史もこういうグローバルな視点から教えることができれば面白いんじゃないかな、と思うのです。


このシリーズの良い点として、写真や図がふんだんに使われているので、イメージが掴みやすいのですが、今回はなんとカラー写真がこれでもか、というくらいに贅沢に付いてきます。
これがいい。思わずヨーロッパに旅行に行ったら、是非見てやろうと思わせるくらいに。


それにしても、「パクス・ロマーナ」を実現した2000年前のローマの実情を知ると、現代の世界では社会的インフラが不足して苦しんでいる国が多いという現実がなんとも皮肉ですね。

*1:実際は「すべての道はローマより発す」といった方がふさわしいらしい

*2:中国大陸の外交使節が日本の京都を見て、城壁が無いのを見てびっくりしたという逸話があるくらい、日本とは違います。

*3:ゲルマニアブリタニアに築いた城壁という例外はありますが