有川浩 『レインツリーの国』

レインツリーの国 (新潮文庫)

レインツリーの国 (新潮文庫)

  • 作者:浩, 有川
  • 発売日: 2009/06/27
  • メディア: 文庫

内容(「BOOK」データベースより)

きっかけは「忘れられない本」。そこから始まったメールの交換。共通の趣味を持つ二人が接近するのに、それほど時間はかからなかった。まして、ネット内時間は流れが速い。僕は、あっという間に、どうしても彼女に会いたいと思うようになっていた。だが、彼女はどうしても会えないと言う。かたくなに会うのを拒む彼女には、そう主張せざるを得ない、ある理由があった―。

元は著者の代表作ともいえる『図書館戦争』シリーズの2作目『図書館内乱』の一エピソードにおける架空の小説として登場。その後に書き下ろしされたのが本作となります。
主人公・伸介が中学生時代に夢中になって読んでいたが、衝撃のラストを迎えたことにより、トラウマになるほど強烈な印象を受けて、大人になっても忘れられなかった『フェアリーゲーム』。
ふと、インターネットで検索して偶々見つけた読書感想ブログの文章に感じ入って、思わず管理者に熱のこもったメールを送ってしまいます。
送信した後に気持ち悪がられたかと後悔したものの、丁寧な返信が来て、管理人の”ひとみ”からも喜んでいたことを知ります。
そして始まったメールのやりとり。
お互いに『フェアリーゲーム』を読んでいた頃に舞い戻ったかのように物語の解釈やそれぞれの想いを打ち明けます。
たとえ好きな本は同じでも、感じ方は男女の違いを感じられて、それが新鮮であったり。
メールで書ける範囲でやりとりする日々が続くうちに伸介の中でどうしてもひとみと直接話をしたい思いが強まっていき、会いたいと申し出たのですが、その途端にひとみからの返事が来なくなってしまいます。
相手は若い女性ゆえに切られてしまったかと焦った伸介ですが、ひとみは散々迷っていたようで、なんとか会うことを了承してくれたのでして。
そして、本屋で待ち合わせすることにしたのですが…。


単行本が出版されたのが2006年なので、まだSNSが主流になる前。
個人ブログやメールがコミュニケーションの主流であった時代ということで、ちょっとばかり懐かしい感じがしました。
今思えば、作中にあったような長文でのメールのやりとりは人を選びますよね。
綴られた文面に特徴があって、人によって好き嫌いを感じるかもしれません。
ですが、読書が趣味の人はリアルで同じような嗜好の人とはなかなか出会えないもの。
それだけ、二人のフィーリングが合ったことが感じ取れました。

ただ、本当の意味で二人がわかりあうには、ひとみが持っていた障害、つまり難聴による生きづらさを克服していく必要がありました。
伸介とすると、実際にひとみと会ってみて、メールから感じたひとみの人柄とは程遠い印象に苛立ちを感じてしまいます。
結局、補聴器を付けていても、すべての音を拾い切れていないためであり、伸介の気分を害してしまったことを悟ったひとみからすると、やっぱり会わない方が良かったとなってしまいます。
感じるのは健常者が障害の持つ悩みを理解することの難しさがよく伝わってきます。
難聴といっても人によっていろいろあり、若いひとみでさえ、それまで生きてきて人間関係で苦労は耐えなかったことがわかります。
足などのように他人が一見してわからないだけに根が深いです。
ひとみが自分でもよくわかっている、面倒くさい性格も生い立ちを知れば理解できなくもないわけで。
しかし、メールのやりとりを通して、言葉を大切にしてきたひとみに惚れた伸介の熱い想いが頑なな心を溶かしていく様が良かったです。

貫井徳郎 『灰色の虹』

灰色の虹 (新潮文庫)

灰色の虹 (新潮文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

身に覚えのない殺人の罪。それが江木雅史から仕事も家族も日常も奪い去った。理不尽な運命、灰色に塗り込められた人生。彼は復讐を決意した。ほかに道はなかった。強引に自白を迫る刑事、怜悧冷徹な検事、不誠実だった弁護士。七年前、冤罪を作り出した者たちが次々に殺されていく。ひとりの刑事が被害者たちを繋ぐ、そのリンクを見出した。しかし江木の行方は杳として知れなかった…。彼が求めたものは何か。次に狙われるのは誰か。あまりに悲しく予想外の結末が待つ長編ミステリー。

たまたま折り合いの悪い上司の暴言*1に我慢しきれず胸倉を掴んでしまった。
極めてタイミングの悪いことにその夜、上司は殺されて、たまたま自分は夜釣りに出かけてアリバイもなし。
そして、密室と化した取調室での長時間に渡る理不尽で執拗な自白強要。
耐えきれずに自白したら、状況証拠だけで有罪コース。
容疑者として逮捕されたら、裁判を待つまでもなく犯罪者扱いされて家族も仕事も失う。
主人公である江木雅史は冤罪を着せられた中、弁護士はまったく頼りにならず、味方と言えるのは家族と恋人だけ。
やってもいない罪をいかにもそれらしく仕立てられて、抗弁も叶わず実刑が確定してしまいます。
最後まで雅史の無罪を信じてきっていたのは母親だけで、父は精神を病んで自殺。
身内に殺人犯が出たことで婚約破棄された姉は雅史を憎しみながら家を出ていき、長らく支えてくれた恋人も月日と共に離れてしまいました。

出所した雅史は唯一の味方である母がアパートでひっそりと暮らしているのを見てしのびなくなり、死を決意するも止められて。
やがて、彼は決意します。これから為すべきこと。それは自分を陥れた者たちへの復讐でした。


ただ気が弱かっただけの一般市民である雅史がいかにして冤罪への道を辿り、深い絶望を味わったか。その一方で事件に関わって、殺されていった者たちの日常。
それぞれ視点を変えながら綴られる重いストーリーです。
復讐対象となった人物のデテールが想像以上に深いのが特徴的でしたね。
そこから感じたのは、刑事・検察官・弁護士は特別悪人でもないし、大きな悪意を持っていたわけではありません。日常のルーチンをこなしていただけ。
ただし、それは雅史にとっては自らを押しつぶす壁となってしまったということなのでしょう。
冒頭の雅史の述懐にあったように、一番最初に殺された刑事は冤罪の引き金を引いたことで重大な責任があるのは確か。
次に許されないように思えたのは雅史にとっては弁護士もしくは検事かもしれませんが、個人的には目撃者でしたね。
彼が自分から目撃したと言い出さなければ罪が確定するかどうかわからなかったし、その理由が平穏で恵まれた生活に刺激が欲しかったというのですから呆れます。
まして、自分がやらかしたことの重さを理解せずに我が身可愛さの発言にイラっとさせられました。
その分、もう一人の主人公ともいうべき山名刑事が執念の調査で雅史の冤罪を確信して、代弁してくれましたが。

重い罪を犯した者が刑に服して償うのは当たり前だと思う一方、冤罪を着せられた者が一度逮捕されてから出所するまでに救済されることはなかなか難しいことがわかります。
突如として人生を灰色に塗りつぶされていった雅史の心情が情け容赦ないほどに伝わってきます。
最後に救いがない代わりにかつて虹色に輝いていた日々が一コマがあまりに切なく感じられました。

*1:それも自身ではなく会社内の恋人を貶める内容だった

青葉優一 『繰り返されるタイムリープの果てに、きみの瞳に映る人は』

内容(「BOOK」データベースより)

「あなたは運命の人じゃなかった」順風満帆かと思われた慶介と亜子の関係。しかし亜子は突然に別れを告げた。驚きと悲しみに打ちひしがれた慶介に、タイムリープというチャンスが与えられる。時を遡った慶介は、別れの原因となった行動や欠点を改めていく。その先に待つのは幸せか、それとも―。繰り返されるタイムリープの果てに、慶介と亜子、二人が辿り着く真相と結末とは?感動うずまくファンタジー・ラブストーリー。

※ネタバレ有りです。

3月下旬、喫茶店で待ち合わせた恋人・亜子から一方的な別れを告げられた主人公・慶介。
失意のままに店を出た後、迫る暴走トラックの前で轢かれそうになった幼い少女を見つけて助け出そうとするも、慶介自身は強い衝撃を受けて気を失います。
目覚めた時、違和感を抱いて日付を確かめると、前の年の大晦日であることがわかり、過去を遡ったことを知ります。
なぜだか、右手には傷痕が。
当然のことながらその時点では亜子とも別れてなく仲良い恋人同士のまま。
せっかく巡ってきたチャンスなので、慶介は最愛の彼女との破局を防ぐべく、過去とは違う行動を取ります。
しかし、迎えた運命の日、まったく同じ場面で別れを告げられてしまうのです。
違っていたのは嫌いになった理由だけで、慶介の行動がことごとく裏目に出ていました。
ただし、最後に会った2週間前まで二人は熱々に過ごしていたわけで。
徐々に嫌いになっていたという亜子の言い分はとうてい納得できません。
そこで同じ行動を取って2回目のタイムリープを果たした慶介は会えなかった2週間の間、亜子に何か問題が起こったのではないかと思い、興信所を雇って1月以降の亜子の行動を探ることにしました。
その結果、1月の土曜日*1は亜子が同じ会社の男女4人で何度も遊びに行っていたことを知ります。そのうちの一人の男が亜子と親しげに振舞っている様子も。
慶介は浮気を疑ってしまいそうなりましたが、2月以降の亜子の行動は消極的になり、別れる前には病院に行っていたことが判明。
そこから慶介は亜子が不治の難病に冒されたことで、慶介を関わらせないようあえて別れを選んだのだと予想するのですが……。


偶然のタイムリープをきっかけに恋人との別れ、そこに生じた謎を解くべく、3か月弱のタイムリープを繰り返す内容です。
失敗を挽回すべく行動するも、結果が変わらないとすると、本当の理由はまったく別の視点から見なければいけないのではないか。
そこから見えてくる亜子に降りかかる災難。
やりなおす度に新たな障害が立ちはだかり、謎が謎を呼ぶ展開もあって、徐々に物語に惹き込まれていきました。
しかもタイムリープには代償が必要であり、始めこそ右手の小さな傷でしたが繰り返すごとに大きく目立つようになっていくという設定が斬新ですね。

最終的に慶介が選んだのは自身の命を犠牲に亜子を救うこと。
その決意こそ尊いですし、感動的なラストへの流れとして必要なのでしょう。
ただし、慶介を喪った亜子の哀しみを思うと、もっと違う選択肢はなかったのかと思いましたね。
その点、自分自身を囮にして二人とも助かる博打(失敗すれば本来の流れより悪い結果を招く)を打った亜子の方が度胸あるなぁと思いましたね。

*1:慶介は仕事がある

吉村昭 『アメリカ彦蔵』

アメリカ彦蔵 (新潮文庫)

アメリカ彦蔵 (新潮文庫)

  • 作者:昭, 吉村
  • 発売日: 2001/07/30
  • メディア: 文庫

内容紹介

嘉永三年、十三歳の彦太郎(のちの彦蔵)は船乗りとして初航海で破船漂流する。アメリカ船に救助された彦蔵らは、鎖国政策により帰国を阻まれ、やむなく渡米する。多くの米国人の知己を得た彦蔵は、洗礼を受け米国に帰化。そして遂に通訳として九年ぶりに故国に帰還し、日米外交の前線に立つ──。ひとりの船乗りの数奇な運命から、幕末期の日米二国を照らし出す歴史小説の金字塔。

戦国時代には日本から大陸や東南アジアまで船が行き来していましたが、江戸幕府による鎖国政策もあり、大型船の建造が中止されると、航海技術も停滞しました。
よって商船は国内の沿岸に沿って航行するのですが、いくつもの難所があって、荒天の際はいともあっさり太平洋を南もしくは東方向へと延々と漂流してしまっていたようです。
著者には漂流した挙句に無人島に上陸、苦労して生き延びたり、他国へと行きついた漂流者の作品がいくつかありますが、本作もその一つ。
時代は江戸時代も終盤に差し掛かった嘉永年間(将軍は13代家定)。欧米列強が中国大陸や日本沿岸へと押し寄せてきた時代です。

父を早くに亡くした彦太郎は母の再婚相手の家に引き取られるのですが、船頭である義父と水主となった義兄に憧れて、自分も船乗りになりたいと思うようになります。
しかし、母の反対もあって、いったんは商人になるために勉強するも、母が亡くなった13歳の時、義父に誘われて初航海に挑みます。
ただし、途中に寄った港で知り合いの船主に見込まれて乗り込む船を乗り換えます。それが運命の分かれ道だとは知らずに…。

彦太郎の乗り換えた栄力丸は江戸に向かう途中、紀伊半島の沖で時化に遭い難破してしまいます。
幸いなことに積み荷に米俵があったことから飢えることはなかったものの、破船状態(帆柱も舵もなく、流されるまま)で漂流すること約2か月。
南鳥島付近でアメリカの商船・オークランド号に発見され救助されたのでした。
そのままアメリカ西海岸の都市サンフランシスコまで辿り着いた一行。
思わぬ異国の地に戸惑いますが、アメリカ人の多くは親切であり、彦蔵(外国人が呼びやすいように彦太郎から改名)たちは現地で言葉を覚え、仕事をして暮らします。
当時、鯨漁の基地を求めていたアメリカは日本との通商のために東インド艦隊長官・ペリーによる使節を派遣することになっていました。
漂流民を送り届けることはそのきっかけ作りになるとして、彦蔵たちもいったん香港を経由して母国へと向かうことになります。
しかし、問題は幕府が鎖国を国是としていること。実際に香港で出会った日本人・力松より、イギリス船に乗って日本に向かうも大砲で打ち払われたと聞き(モリソン号事件)、すぐに帰国するのは無理だろうと諦めるのでした。

後世の我々からすれば、異国船打払令が出された天保年間とは事情が違い、外国の脅威を知った幕府の対応が変わっていったことを知っています。
しかし、当時の庶民からしたら、一度外国に出てしまえば大罪になるというのは常識。
お上に逆らったら大変だという長年の習慣が染みついています。
作中でも外国船に乗り込んできた役人を前にした漂流民が土下座して震えている様子が何度も描かれています。
それくらい重いことだったのでしょう。

はるばる香港まで一緒にやってきた栄力丸の乗組員(船頭は病死)はそこでバラバラになり、彦蔵を含む3名が再びアメリカへ行くことになり、長らく滞在することになるのです。
サンフランシスコに戻った彦蔵は税関長のサンダースに気に入られて、ほとんど養子待遇で教育を受けさせてもらいます。
本当の父のような愛情をもらったサンダース始め、船乗り、軍人、商人など多くのアメリカ人の恩を受けている様子がわかります。*1
もちろん、彦蔵自身が真面目でまっすぐな性格をしていたというのもあるでしょうけど、この頃のアメリカ人の面倒見の良さは特筆すべきですね。

日本が開国したことにより、彦蔵の帰国が可能となったのですが、先に洗礼を受けてキリシタンになっていたために帰化してアメリカ人として同行します。
アメリカ暮らしが長くなった彦蔵は会話だけでなく、英語の読み書きまで上達していたことや、仕事を通じてアメリカの商取引の知識も蓄えていたことで、アメリカ領事館で通訳として引っ張りだこになるほど活躍。
しかし、開国反対派による尊王攘夷がはびこるようになっていて、浪人たちの標的は外国人だけでなく、海外取引で儲ける商人や彦蔵のような通訳にまで及んでいました。
せっかく帰国が叶った上、学んだ英語を活かして仕事に励んでいたのに同じ日本人から命を狙われるとは、この頃の彦蔵が受けた恐怖や絶望は非常に強いものだったことが伝わってきます。
もっとも、後に長崎のグラバー商会で働くようになって伊藤博文らと親交を結んだのですが、かつては長州藩尊王攘夷を旗頭としていたことをどう思ったのかがちょっと気になりました。

ともかく、名実共にアメリカ人同様となった彦蔵は時代に翻弄され続けた人生であったことがわかります。
良いことも悪いこともありましたが、どちらかというとサンダースを始めとするアメリカ人の温情を受けたことが印象的でしたね。*2
尊王攘夷の激しかった頃はアメリカに戻ったりしましたが、それでも最後は日本に戻り、故郷にも訪れたりしています。
日本に生まれた以上は日本人としてのアイデンティティは捨てられなかったのでしょうか。
ただし、開国間もない時代の田舎の村人にはすっかり外国人と化した彦蔵を受け入れることができなかったのが悲劇的でありました。
大作であり、日本を巡る当時の国際事情を知るには良いのですが、彦蔵とは関係ない部分の記述も長かったのは確かでした。

*1:リンカーンを始めとして大統領と面会までしている。

*2:南北戦争が始まると国内が殺気立って雰囲気も変わる。

まいん『食い詰め傭兵の幻想奇譚12』

食い詰め傭兵の幻想奇譚12 (HJ NOVELS)

食い詰め傭兵の幻想奇譚12 (HJ NOVELS)

内容紹介

吸血鬼の神祖ふたたび…!?

ゆく先々に現れる謎の男マグナ。いい加減辟易してきたロレンたちは、対処するため先代の魔法王国について調べ始める。
その情報源として、エンシェントドラゴンを訪ねることになったが、その道中に懐かしい人物と合流し……。
これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である。

魔族の領域で出会って以来、黒い鎧の男・マグナはロレンたちがゆく先々で遭遇しては厄介事を押し付けられる天敵のような存在と化していました。
だったら、こちらから先手を打って、マグナが立ちまわりそうな古代遺跡を見つけて宝なり何なりいただいてしまえばいいという考えます。
とはいえ、今まで見つけた古代遺跡は偶然の産物であり、新たな遺跡がどこにあるかはわかりません。
そこで古代のことならば長命の者に聞くのが良いということで、当たりをつけたのがエンシェントドラゴン。
折よく火吹山に住まうというエンシェントドラゴンの動向を探る依頼があったのですが、その危険さゆえに受注資格は白銀級冒険者
そこで、かつて一緒に仕事をした白銀級パーティでエルフのニムが暫定リーダーとして加わることになったのです。
彼女は同じパーティのチャックと結婚するにあたり、贈り物のために金が必要らしいのでした。
火吹山に向かう道の途中で近くに神祖・ディアの住処があることを思い出したロレンは訪ねてみます。
伝説的な存在なのにロレンがいつもと変わらぬ気安い調子で話をしているのに驚くニム。
結局、ディアは暇だからという理由で付いてくることになります。
火吹山山麓の村は無人と化してしていて、異変があったことは明らかになのですが、死体の一つも見つからないのがおかしい。
さらに異様なオークの集団に襲われます。
ここでも何か異変が起きていることを察知したロレンたちは逃げたオークを住処まで追いかけていくのでした。


ロレン(中に”死の王”)、ラピス(魔族)、グーラ(邪神)に加えてディア(神祖)が加わった一行。
強すぎて、そのへんの魔物じゃ相手にならないレベルですね。
ラピスだけは正体を明かすわけにはいかないのですが、その分エルフであるニムの弓術が光っていました。
最後に待っていたのはボスに相当する敵ではなく、謎解きでなので地味なまま終わった感じでしたね。安定した面白さではありますが。
結婚披露宴もロレンたちではなくニムとチャックなので、「良かったね」で終わるほのぼのしたシーンでした。
あとはロレンがなぜキーワードとなる言葉を知っていたも含め、かつて所属していた傭兵団の団長に会いに行き、次巻でなんらかの秘密が明かされる展開が待っているわけですねー。

『血―吸血鬼にまつわる八つの物語』

内容(「BOOK」データベースより)

人間の生き血を吸わなければ生きてゆけない伝説の怪物―吸血鬼。数々の忌まわしい言い伝えに彩られ、人々を恐れおののかせてきた禍々しくも美しい怪異が、八人の創造者の手によって、今ここによみがえる。ブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』を世に問うて100年の時がすぎた20世紀末、血を吸う悪魔の恐怖は新たに形を変えて、ひ弱な人間たちにまたも襲いかかる。現代吸血鬼小説の最先端を収録した豪華アンソロジー

映画監督2人・小説家6人による、吸血鬼をテーマにしたアンソロジーです。
オーソドックスな西洋風の吸血鬼(ヴァンパイア)あり、妖怪じみた吸血蛭もあれば、人間に血を抜かれる話もあり。主人公が吸血鬼本人であったり、吸血された犠牲者(?)であったり、はたまた追う者であったりと内容もバラエティーに富んでいました。


「13」大原まり子
盲目の私を拾い育ててくれたお屋敷の中には13人目の異形の何かが存在していた。

「かけがいのない存在」菊地秀行
独特な機械工業文化が発達した世界にて、ある職人はガラクタ市場で精巧な人形を見つける。首元にある奇妙な穴の謎解きに夢中になるのだが、その人形を巡って謎の集団の襲撃を受ける。

「薔薇船」小池真理子
耽美派の風変わりな作家が遺した記念館を訪れた主人公。
遺作として展示されていたのは作品の体裁さえ成していないプロットであったが、それを読んだのをきっかけに古い記憶が呼び起こされる。

エステルハージ・ケラー」佐藤亜紀
19~20世紀のオーストリア。ある日突然吸血鬼になってしまった男の顛末。人外の化け物となってしまった男は家族からも恐れられるが、信仰心は失うことなく、司祭のもとで働くようになる。

「アッシュ―Ashes」佐藤嗣麻子
男は酒場で出会った女吸血鬼に惹かれてそのまま隠れ家に監禁・飼われる生活を送るが、ある日突然解放される。男は彼女のことが忘れられず、何年もかけて探し求めてしまう。

「一番抵当権」篠田節子
ライターとして成功した男は長年支えてくれた妻を捨てて、若く美しい女を娶る。
しかし、金にルーズな彼は支えがなくなるとたちまち困窮して借金地獄に陥ってしまう。困り果てた末に捨てた元妻を頼ることになって、病院に匿われて試薬検体のアルバイトをすることになるが…。

「スティンガー」手塚眞
夜の公園に出没する美しい女性ヴァンパイアに魅せられてしまったホームレスの少年。ヴァンパイア・ハンターの大男は少年にヴァンパイアの住処へと案内させようとする。

「血吸い女房」夢枕獏
安倍晴明シリーズより。さる貴族の女房*1が就寝後に不審な症状を訴える謎に晴明と博雅のコンビが迫る。


半分以上がヨーロッパもしくは異世界を舞台にしてあり、独特の世界観が味わえて良いとは思います。
でも個人的には現代を舞台にした「薔薇船」と「一番抵当権」が非常に印象に残りましたね。前者は血を吸う行為からのエロティシズム、後者は因果応報としてのホラーなオチが秀逸でした。

*1:ここでは高位貴族の屋敷に勤める女官や侍女の意味

横山信義 『蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣』

蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣 (C★NOVELS)

蒼洋の城塞4-ソロモンの堅陣 (C★NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

戦艦『大和』をもって英国最新鋭戦艦を撃破したものの、日本にはニューギニアを制圧し豪州を屈服せしめるまでの力はなかった。戦場での勝利を積み重ねて敵の継戦意思を折るという戦略に限界を感じた山本五十六は、講和に至る別の方策を探るべく、司令長官を辞して連合艦隊を去る。同時に、開戦以来攻勢を続けてきた連合艦隊は守勢に転じ、長期持久も視野に入れた艦隊編成と人事の刷新を行う。一方、米国は新兵器を装備した艦隊を珊瑚海に送り込んで来た。迎え撃つ新体制連合艦隊に勝算はあるのか―

ポートモレスビーからいったん引いて、ラエにて防御態勢を整えた日本軍。
米軍はオーストラリア北東岸に加えてガダルカナル島でも基地を建設して二方向から航空攻勢をかけてきます。
補給線が短くなったことに加えて潜水艦対策を行ったこと、陸軍航空隊にも協力を願ったこと。それに対して攻める米軍としては距離の関係で充分な護衛が付けられず、思ったような効果は出ないわりには大きい損害が出てしまう様子が描かれます。
しかし、時は1943年に入ったところで、史実でも連合軍有利へと傾いていく時期です。
太平洋戦線でその役割を担ったのは当時の正規空母としては最高の性能を誇ったエセックス級。そして零戦に対して劣勢であったF4Fの後継機として登場したF6Fヘルキャット
一時は稼働空母が一隻だけに落ちこんだものの、本気を出したアメリカの工業力は続々と新艦船を送り込んできます。
いくら日本側の空母群が健在であっても初期のような大勝は難しくなっていきます。

そして生起したのがラエに攻勢をかけてきた米軍とそれを阻止する日本軍との空母部隊同士の戦いでした。
戦闘機と空母が更新されて戦力的に充実したことで敵を舐めていたのか。
史実のミッドウェーを逆にして再現したかのようなミスで攻め切ることができなかった米軍が戦略的に敗北しました。
これも史実では海軍における勝利の立役者であったハルゼーとスプルーアンスが作中では二人とも戦死していることが関係しているのでしょうかね。
沈没したのは軽空母のみ、正規空母はどちらも中破程度という痛み分けで終わったかに見えたところで日本軍は飛龍と龍驤が潜水艦による雷撃で沈没。先に潜水艦を狩っていた水上機の基地が壊滅したために入り込まれていたようです。
もっともアメリカ軍も追跡してきた第八艦隊と夜間の水上砲雷戦、および潜水艦によって、傷ついていたエセックス級2隻が沈みました。
エセックス級が航空戦で沈没しなかったのは、幾度も傷つきながら生き延びて、一隻も沈むことがなかったという史実を反映したのですかね。
これから零戦の後継機が登場予定で、空母も大鳳陸奥(改装)、信濃が就航予定ですが、当然米軍の方がペースが上回っているので苦しくなりそう。
艦船乗組員の被害は米軍の方が多いですが、これからパイロットの消耗は日本の方が増してくるでしょうからね。

一方、ヨーロッパ戦線では史実よりも頑張っていた枢軸軍ですが、連合軍の本格的な反撃によって押し戻されていく様子が描かれました。
北アフリカ戦線は消滅。東方ではスターリングラードから撤退。今後ノルマンディー上陸に相当する作戦も実施されるのではないでしょうか。
ヒトラーにとって起死回生たるV2ロケットもどれくらい効果あるのか?
日本軍としても、今まで大敗はしませんでしたが、沈めた分の倍以上を揃えて来襲してくる米軍にどう対処して、戦争の落としどころを決められるかが次巻以降の見どころでしょうね。