13期終了

13期の一覧はこちら。
http://book100.g.hatena.ne.jp/goldwell/20180201/p1


今まで一番少なかった12期の57冊から少し増えて64冊となりました。
一か月あたりの読書数は5.3冊。
数年前から継続して読んでいる作家の名前が並んでいます。
前回に引き続き、Web小説原作が一定の割合を占めるようになりました。
『決戦シリーズ』を立て続けに読んだせいか、歴史ものが少し増えたかもしれない。
海外作品は以前よりもだいぶ減って2冊にとどまりました。


今期自己評価が高かった作品(5段階中5)はこちら。
有川浩『明日の子供たち』
池井戸潤『下町ロケット2 ガウディ計画』
小川一水『青い星まで飛んでいけ』
篠田節子『ブラックボックス』
谷舞司『神統記(テオゴニア)1,2』
辻村深月『朝が来る』
辻村深月『かがみの城』
中山七里『贖罪の奏鳴曲』
中山七里『麒麟の翼』
宮本昌孝『武者始め』
吉村昭『仮釈放』


13期に渡って続けてきた100冊読書ですが、今回で終了することにしました。
前半は一度だけ達成したし、90冊台の惜しいところまでいってましたが、後半は80冊さえ切って、もはや目標とするには無理がありましたし。
それでも、このブログで読書感想は続けていくつもりです。
※タグは「100冊読書」から「読書」に変更。

13期・64冊目 『てのひらに爆弾を』

てのひらに爆弾を

てのひらに爆弾を

内容(「BOOK」データベースより)

都心で市民を狙った爆弾事件が発生。爆弾が仕込まれたのは携帯電話だった。所轄署から警視庁捜査一課特殊班に移った城辺直秀にとって、初めての事件だ。犯人は各携帯電話会社に「身代金」を要求するが、その後、動きを止めてしまう。狙いは何か。思わぬ手掛かりを掴んだ城辺は、真相に迫っていくのだが―。大ヒット『そして粛清の扉を』の著者が放つ、待望の長編サスペンス!

落ちていた携帯電話を拾って電源を入れた途端に爆発するという事件が都内で連続発生。
犯人は他にも爆弾を仕掛けていることを明かした上で携帯電話会社に金を要求する。
幸い死者はなく怪我人のみで殺傷力は低いものの、携帯電話というありふれたツールを使った脅迫事件だけに特殊班による対策本部が作られて厳重な体制で取り組みます。
しかし、便乗犯が出たものの、真犯人からは接触が失せてしまい、しばらくしてから別の会社の携帯電話で続けて爆発事件が発生するのでした。
いったい、犯人の狙いはどこにあるのか?
警視庁捜査一課特殊班の城辺刑事はプロファイリングの結果などから、犯人は単純な金銭目的ではなく、途方もない目的を持っているのではないかと探り始めるのでした。


章が変わって、孤独な女性の話。学校で酷い虐めを受けていた彼女は頭一つ飛びぬけて勉強ができたためになんとか抜け出せることができたが、対人関係に難があって就職もせずにアルバイトで過ごしていた。
そんな彼女がある夏の日に公園で出会った不思議な老人と子供。
子供はかつての自分と同じように母子家庭であり、学校で酷い虐めを受けていることがわかって・・・。


子供が安易に携帯電話を使うことにより、虐めの一環として掲示板などで誹謗中傷が書き込まれたり個人情報が拡散されている状況。
携帯電話会社がフィルタリングや子供用携帯電話など対応を行っているというが、それは建前上そうしているだけで実際は利用者の安全よりも儲け主義に走っている。
そういった現代の子供に対する携帯電話の危惧については理解はできる部分はあります。
それなのに大義のためには犠牲を問わないテロ*1に堕ちてしまい、最後は矢面に立った女性一人の自爆で終わってしまうという呆気なさ。
情報収集などの面でかなりの組織が動いている気配があるのですが、それらはブラックボックスとして一切明かされません。
主人公の城辺刑事にしても、同級生だったプロファイリングの専門家が登場したり、かつて検挙した犯人グループの残党に恨まれてしまったがために妻子の安全を図って一時離婚しているといった背景があるのですが。
結局それらは単なるエピソードに終わってしまい、終盤にほとんど関与しません。
そういうわけで長々と引っ張ってきたにしては、前後巻の前巻でしまったような中途半端な読後感でした。

*1:子供を爆弾の被害には遭わないようにはしているが、それでも関係ない市民が重傷を負っているし、社長の子供を脅迫のネタにしているのがどうにもおかしい

13期・63冊目 『不屈の海4 ソロモン沖の激突』

不屈の海4-ソロモン沖の激突 (C・NOVELS)

不屈の海4-ソロモン沖の激突 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

日本軍は第三次ビスマルク海戦に敗れ、ビスマルク諸島の制圧に失敗。以降、機動部隊で米輸送船団を叩くことで、補給線寸断を狙う戦略を採る。しかし、対する米国もトラック島沖にて日本輸送船団を攻撃し、戦局は膠着の一途を辿っていた。一方、欧州戦線では連日、米英の戦略爆撃を受けるドイツに疲弊が目立ち始める。中立を守るイタリアを動かすため、連合軍はマルタ島に進出。外交戦が活発化する中、ソロモン諸島沖にて輸送船を狙う連合艦隊と、護衛にあたる太平洋艦隊がついに激突。巨大空母四隻による一大決戦が幕を開ける。両陣営、新型戦闘機を導入した戦いの行方は―?

海戦に勝利して戦局を有利に進めていたかに見えた日本軍ですが、前巻ビスマルク諸島の航空制圧に失敗したことにより戦線は膠着気味。
もっぱらトラックに来襲するB17に対する迎撃戦。
互いの補給線に対する攻防が激しさを増していました。
そんな中、軽空母を伴うアメリカの補給船団の攻撃には潜水艦だけでは効果がみられないため、二つある機動部隊の一つを投入する決断をします。
これが功を奏して補給船団が護衛艦とともに壊滅したことにより、B17による空襲が中断。
逆に窮地に追い込まれた南太平洋艦隊では虎の子の空母を出撃させることに。
ここに本格的な航空決戦が生じることになったのでした。


膠着状態となったことで、史実ではほとんど見られなかった行動に出るあたりが珍しいと言えるでしょう。*1
例えば、トラック基地に進出して迎撃を担う二式戦鍾馗零戦は長い足を生かして帰還するB17を執拗に追いかける。
ラバウル湾内に機雷を設置する潜水艦。
そして大物食い傾向にある主力(機動部隊)による輸送船団襲撃。


そして肝心の機動部隊同士の航空決戦については、それぞれ迎撃専任の軽空母から新型機を運用したり、日本の急降下爆撃が三式弾を改造した爆弾を使用したという点を除けば、架空戦記にしては現実的かつ地味な結果に終わった気がします。
むしろ、機動部隊というより基地司令のイメージがある草鹿司令官が夜戦を行ったところが意外だったというか。
著者も読む方の意表をつくためにいろいろ考えているってことでしょうか。


今回は痛み分けに終わりましたが、いよいよアメリカは量産されたエセックス級の運用が始まります。
ただでさえ対空やダメコンの能力が高いのに加えて主力戦闘機もF6Fヘルキャットに置き換わり、手ごわさが増していく。
戦艦大和復活は喜ばしいですが、厳しさを増していく戦局にどうやって対応していくのか。
また、虎視眈々と狙うソ連も不気味であり、欧州戦線が今後どう動くかによって、太平洋方面に影響を与えていくんじゃないかと予想されますね。

*1:著者の架空戦記作品では何度か見られるけど

13期・62冊目 『災神』

災神

災神

内容(「BOOK」データベースより)

島根県出雲市は、ある一瞬を境に瓦礫の山となった。テレビに映し出される光景に誰もが息を呑むが、原因は不明のまま。局地的な天災か、北朝鮮のミサイルか、テロか!?先遣隊として送り込まれた陸上自衛官の新野は、風変わりな子供アキラと技術者の天音に出会う。彼女が勤務する巨大な研究施設で起きた“予測不能な事態”を知った新野は震撼する―。街が封鎖され通信手段がない中、唯一つながったツイッターには、最新のニュースや、救出を待つ人がいそうな場所などさまざまな情報が寄せられる。見知らぬ人々の祈りのもと、生存者たちは立ち上がるが…。ノンストップのパニックサスペンス。

島根県出雲市が謎の災害によって瓦礫だらけの地と化した。
当地に偵察隊として派遣された陸上自衛隊の兵士たち。偶然地下の酒場で飲み明かしてそのまま寝入っていたために難を逃れた女性研究者を軸にいったい何が起こったのかが徐々に明かされていく。
その災厄をもたらしたのは日本海メタンハイドレート採掘時に発見された巨大生物ミズチ。
研究のために捕獲してプールで眠らせておいたのが冷却装置の故障などによって、出雲に上陸して暴れまわったということなのでした。
ミズチは暴れた後に海に還ったと思われましたが、現地に到着した自衛隊の小隊は生存者には一切会うこともなく。
進むうちに大きさはあまりないが、びたん、びたん、という不快な音と共に灰色の名状しがたい奇妙な生物に襲われてしまいます。
それはヒルコと名付けられた、陽を避けて瓦礫の隙間から獲物(人)を捕食する化け物。
出雲はミズチとヒルコにより、ほとんどの市民が犠牲となって、まるで破壊し尽されたゴーストタウンのような有様となっていたのでした。


こういった災害時に気になるのは政府の対応ですが、採掘場所が竹島の南方ということで、デリケートな一帯。
さらに新種の生物が発見されたら、日本のエネルギー問題の解決の鍵となるメタンハイドレート採掘に大幅な影響が出ると予想されて、請け負っていた会社も依頼した政府としても公表せずに秘密裏に運ぼうとしていたこと。
それゆえにいざ大災害を巻き起こした当初から事実を伏せたまま対処しようとしたのでした。
それが破られたのは、現地入りした自衛隊員・新野によるツイッターでの投稿。
当局の思惑を超えて、インターネット上にはミズチが暴れた出雲の様子が断片的に漏れていき、情報を求める声や新野を支援する声、被災者を救おうとする声に満ちていくのでした。


amazonのレビューにて指摘されていたように映画『シン・ゴジラ』による影響が強いそうですが、私は見ていないのでコメントしようがありません。
ただ、2011年以降に発表されたパニック小説には東日本大震災が強い影響を与えているのは違いありませんね。
情報公開を渋る政府や企業、米軍の協力*1、その一方で様々な情報がインターネットに溢れるようになり、以前はマスコミ頼りだったのが国民一人一人が情報の発信者(玉石混交ではあるが)となったのが3.11以前とは明らかに変わりました。
その象徴的と言えるのが、嫌々ながらも仕事だからと現地に赴くことになった新野。
彼は二年間の採用期間が過ぎたら転職するつもりであり、兵士としての覚悟も国民を守るために命を張るような義務感など持っていない普通の青年。
それがいつの間にかツイッターの投稿が多数のフォロワーを呼び、ヒーローのように扱われていく。
後から本人が知り、「そんなたいそうな人間じゃない」とギャップに悩むところがリアルな感じがしましたね。


前半の不気味な状況からそれぞれの人物が出会い、何が起きているのかを把握。
日本政府に断りなく第七艦隊が沿岸からミズチに攻撃するあたりからストーリーが加速していきました。
緊迫感と迫力あるミズチやヒルコとの戦いや脱出の描写。
土壇場になって本腰を入れた総理やネットを通じて大勢の人々が新野に呼びかけるなど、現地以外でも盛り上がっていくのも良かったですね。
終盤は目が離せず夢中になってページをめくったものです。
最後はいかにもエンターテインメント風ではありますが、それはそれは良いのかもしれません。
現実だったら、新野はむしろこれからが大変だろうなぁと思いますね(笑)

*1:終盤には世界各国からの援助も出ていた

はてなダイアリーからはてなブログへ移行

2018年8月30日にはてなからお知らせがあり、はてなダイアリーはサービス終了となるそうです。
「2019年春「はてなダイアリー」終了のお知らせと「はてなブログ」への移行のお願い」
年末年始の休みにでも移行しておこうかなと思っていたのだけど、すっかり忘れていたら新しいお知らせが。
「はてなダイアリー終了の際、すべての投稿データをはてなブログに自動移行します」
放置しておくと、自動的に移行されるようです。


細々ながらも続けている当ダイアリーですので、はてなブログに移行して続けていきたいと思います。
ところで、はてなブログが始まった当初に何日分か投稿しているんですよね。
FAQも公開されているけど、既存のはてなブログがあった場合のケースは特に言及されていないみたい。
そちらの記事は残したまま移行できるのかはわかりませんでした。たぶん大丈夫なんだろうけど。
ということで近いうちにはてなブログに移転します。名前もこちらに合わせて『雑葉抄』にするつもりです。

13期・61冊目 『冬を待つ城』

冬を待つ城 (新潮文庫)

冬を待つ城 (新潮文庫)

内容紹介

籠城か、玉砕か――否、三成との知恵比べに勝利し、あとはただ冬を待つのだ! 天下統一の総仕上げに、奥州最北端の九戸城を囲んだ秀吉軍、兵力なんと十五万。わずか三千の城兵を相手に何故かほどの大軍を要するのか――奥州仕置きの陰のプランナー石田三成の真意を逸早く察知した城主・政実は、九戸家四兄弟を纏めあげ、地の利を生かして次々と策略を凝らした。あとは包囲軍が雪に閉ざされるのを待つのみ!

「三日月の丸くなるまで南部領」と言われるほどに勢力を伸ばした南部晴政の後継の座を巡って対立を続けていた信直と九戸政実*1
九戸四兄弟の末弟である久慈政則を主人公にして、晴政没後の揺れる南部領が描かれます。
南部氏本拠である三戸城への正月参賀を機に信直と政実を和睦させようと九戸の兄弟は尽力するが、政実が刺客に襲われて頓挫。
影には南部宗家と有力一門である九戸の対立を煽って戦へと発展させようという企みがあり、いまだに燻る葛西などの一揆勢を九戸に合流させた後に15万を号する征討軍を差し向けるつもりなのです。
近い将来に実行する朝鮮出兵。厳しい冬を迎える現地での作業に従事させるには西国よりも寒さに慣れている奥州の民がふさわしい。
九戸反乱鎮圧に隠れて奥州で人狩りを行って連れ去るの目的があったのでした。
そこには奥州に対する蔑視がありありと伺えます。
独自の情報網によってそれを察知した九戸政実は南部を一つにまとめて秀吉に抵抗しようとします。
実は九戸政実の元には遥か昔に中央の軍に敗れて山々に籠った蝦夷の民がついている他、金銀や硫黄の鉱山を手にしていました。
秀吉配下の石田三成は莫大な火薬作りに欠かせない硫黄の鉱山を我が物にすべく、その在処をある者と協力して探っていたのでした。


豊臣秀吉の天下統一の最終段階で起こった九戸政実の乱は知っていましたが、なぜ刃向かうことになったのかまでは知りませんでした。
関東に覇を唱えた北条氏でさえ20万の大軍に飲み込まれて敗れ、伊達・南部を始めとする奥羽の諸大名は悉く矛を収めたというのに、南部氏の一門である九戸政実なぜ天下の軍勢に逆らうような真似をしたというのか?
実は冒頭で描かれた朝鮮出兵にて厳冬の中で苦闘する日本の将兵
一人の武将の顔を思い出して悔しがる石田三成。そこに答えがあったのでした。


すでに最終的な結末がわかっている歴史を小説として面白く読ませるには、資料からは伺えない背景やら人物像が必要かと思います。
やはり奥州といえば、アテルイから始まり、奥州藤原氏の滅亡までの中央との苦闘の歴史があるでしょう。
九戸政実はそれを受け継ぐ棟梁の一人として据えられたわけですね。
もともと南部氏の精鋭を率いる九戸として、天下が落ち着いていく行方が見えない愚者ではなく、やむにやまれぬ事情があったというのが納得です。
それぞれの立場に立つ九戸四兄弟の事情。
九戸と南部を標的にした石田三成の陰謀が徐々に明かされていくのがたまりません。
かなり悪者っぽく描かれていますが、現地であの人物が暗躍したのも納得です。
また、征討軍の先鋒対象に任じられた蒲生氏郷の清廉さ、後背定かならぬ伊達政宗など、それぞれの思惑で動くところも良かったです。
タイトル詐欺というか、善戦した割にはあっけなく和議が結ばれて、首謀者たちは処罰されることになったその真実が山場として描かれています。
多少強引な気がなくはないですが、死せる九戸政実石田三成の密謀を見事に潰したと思えば勝利なのでしょう。
その一方で戦いが長引き、征討軍が雪に埋もれた北奥州で立ち往生していたら、違う歴史が刻まれていたのかもしれないと気になりました。

*1:同じ婿養子として後継者候補だったのは次弟・実親