9期・2冊目 『群龍の海4 白い大艦隊』

内容(「BOOK」データベースより)
1944年3月21日、米太平洋艦隊司令部は、トラック環礁の占領を宣言した。日本は、中部太平洋最大の要衡を失ったのだ。対日戦の早期決着を目論んで「白い大艦隊」作戦を発動した米海軍は、手始めに小笠原、マリアナ諸島空爆と艦砲射撃で強襲して、日本軍の航空部隊を無力化した!次なる米海軍の矛先は、一体どこに向けられるのか!?

三つ巴の冷戦状態だった欧州が独仏国境の偶発的な衝突から本格的な戦争への発展。
ドイツ機甲軍団の快進撃は止まらずフランスの存亡は風前の灯。*1
そこでイギリスはアメリカに参戦を乞い、引き換えに日本への援助を打ち切ることに。
アメリカとしては欧州戦線への参戦の前に対日戦のケリをつけるべく、一大作戦「グランドホワイトフリート(白い大艦隊)」を発動。
トラック失陥後の日本軍は中小25隻の空母による連合航空艦隊とマリアナ諸島の基地航空隊で迎え撃つ構え。
というのが序盤の流れになっています。
前巻のネブラスカ級を上回る10万トンの超巨大戦艦ヴァーモントを筆頭にポスト・パナマクラスの新鋭戦艦群を押し立てて進軍する米艦隊ですが、真っ先に標的となったのはマリアナより北の小笠原諸島でした。
果たしての米軍の意図やいかに?


パナマ運河の制限撤廃により、大艦主砲主義を推し進めたアメリカと国力の差ゆえ戦艦建造を諦めて航空主義に走った日本の戦争を描く本シリーズもいよいよ大詰めといった感じです。
冒頭にパナマ海峡での潜水艦の機雷散布によって回航したばかりの戦艦ヴァーモントが被雷。
航空隊再建の時間稼ぎに成功するも、いざ始まってみるとトラックから飛来した重爆と機動部隊(特に夜戦F6F)の空襲、夜間は小艦隊によるゲリラ的砲撃など米軍の戦術が功を奏しマリアナは戦力を失ってゆく。
基地群司令である山口多門の好判断による薄暮攻撃で6隻の軽空母撃破に成功するも、他は米軍の独壇場と言っていいくらい。
そうこうしている内にマリアナ含む日本の基地航空隊は壊滅、主力の米戦艦部隊は一気に帝都を衝くべく北上。
慌てて本土から長門陸奥を中心とする日本の戦艦部隊が迎撃に出ることになるのです。
一方日本の切り札たる空母群はなぜか沖縄近海で待機してて、肝心のマリアナ防衛に連携が取れず。
米軍の意図に気付いてようやく救援に向かうというように後手後手にまわり、いったいどういうつもりなのかと思ってしまいましたね。
まぁ最終決戦での見せ場を作るべく、わざと登場を遅れさせたということでしょうか。
それだけに今回のクライマックスは性能に劣る日本の戦艦群が勝ち目はなくともヴァーモントらの米新鋭戦艦の前に立ちふさがり、激闘を繰り広げるわけでその描写はさすがに迫力満点。
個艦ごとの戦いぶりと最期はかつての『八八艦隊物語』の終盤を彷彿させるほどの苦闘と哀切に満ちていました。
戦略はまずくとも物語としては出来が良かったと言えるのが皮肉。
やっぱり日本軍にはそういうヒロイズムが似合うんでしょうかね。


次でいよいよ最終巻となるかと予想。
結果的に温存した連合航空艦隊で米空母を潰した上で、本土の航空部隊と小型潜水艦が阻止に出るという流れが予想できます。
そういやエピローグにちょっと気になる点を残したまま終わったのが思わせぶりすぎる・・・。

*1:年月こそ違うものの史実通りの経過

9期・1冊目 『ぼくらは都市を愛していた』

ぼくらは都市を愛していた

ぼくらは都市を愛していた

内容(「BOOK」データベースより)
デジタルデータのみを破壊する「情報震」が地球上で頻発している。原因はおろか震源地すら特定できない。あらゆる情報が崩壊し、機能を失った大都市からは人の影が消えた。偵察のためトウキョウに進駐した日本情報軍機動観測隊は、想定外の「敵」と出会う…終末か創世か、3.11を経てはじめて書き得た、渾身の長編登場。

コンピュータ本体を始め、CD・DVDまでも含めたあらゆるデジタルデータを破壊するという謎の「情報震」が頻発するようになった近未来において、相互不信による大規模戦争が起こり、人類が大幅に減少。
「情報震」は今なお続き、原因も予測もつかず、通信途絶のまま人類は絶滅の危機に陥ります。
そんな中で首都移転後、無人のデジタルシェルターと化した東京を訪れたのは、機動観測隊を率いる日本情報軍中尉の綾田ミウ。生き別れの双子の弟に向けた彼女の手記から物語は始まります。
一方、警視庁公安課の綾田*1は知らぬ間に体に人工神経網を埋め込まれたために他人のケータイ情報を読み取れたるようになっただけでなく、同じ神経網を持つ同僚と思ったことがそのまま通じ合う疑似テレパスとなってしまいます。
ある日、若い女性が殺される事件が起きるのですが、事件現場に向かった際に綾田が犯人、同僚女性の柾谷が被害者の心理状況に陥ってしまいます。
それは人工神経網が受け取ってしまった幻なのか?
そしてその場から姿を消した謎の人物とは・・・?


同じ東京を舞台としながらも、別次元と言えるほどまったく環境が違う二つのストーリーが進んでいくのですが、読み進めていくほどに謎が謎を呼ぶ、なかなか手ごわい作品です。
かたや「情報震」のために無人でありながら都市機能としては生きている東京。
かたや(かつて生きていた?)人々の集合意識が作り上げたというごく普通の大都会。
二つの世界が交差した時に都市の真の姿を現す。
小説の中で描かれる東京という大都市の姿はいろいろ見てきましたが、この作品で描かれた(しかも両極端な)イメージがすごく新鮮でした。
ただ綾田(弟)の方には女性が重要な関わりを持ってくるのですが、結局謎めいたままあっさり退場してしまってちょっと残念でしたね。

*1:話の流れ的にミウの双子の弟カイムと想定される。年齢設定が不自然だが後々理由がわかる

100冊読書8期終了

8期の一覧はこちら。
http://book100.g.hatena.ne.jp/goldwell/20130201/p1
今回は100冊読書始めて以来の最少の77冊。7期は80冊でしたから読むペースが確実に下がってますねぇ。


ところで今期自己評価が高かった作品(5段階中5)はこちら。
梅本弘『ベルリン1945―ラスト・ブリッツ』
ウィリアム・カッツ『恐怖の誕生パーティー』
遠藤周作『沈黙』
小川一水『天冥の標6(Part1,2)』
沢木耕太郎『凍』
朱川湊人『本日、サービスデー』
テア・ベックマン『ジーンズの少年十字軍(上・下)』
ネイサン・ウルフ『パンデミック新時代―人類の進化とウイルスの謎に迫る』
中島らも『ガダラの豚(1〜3)』
宮部みゆき『楽園(上・下)』


全体的に見て、ここ数年内に刊行された本よりも10年以上前に刊行された古めの本が多いかな。
やっぱりフィクションが多いけれど、2冊が評価5になっている通り、ノンフィクションはピンポイントで選んでます。
小説としては相変わらず歴史・戦記が一定の割合であるも、広い意味で現代ものが多めなのも傾向としてあまり変化ないですね。


年々100冊から遠ざかっていますが、事実上当ダイアリーのメインでありますのでまた9期として始めようと思います。
【ルール】
目標冊数:1年間100冊
読書期間:2014.02.01〜2015.01.31
コミック・雑誌は含まず、小説など活字作品の文庫・新書・単行本のみ。
再読や借りた本も含める。
上・下とか1,2,3とか巻別に分かれている本は1カウントとする。

Happy Birthday!

うちの娘も今日でついに10歳を迎えました。
この日記を書き始めた2005年12月の時点ではまだ2歳にもなっていなかったのですよねぇ。
それがもう10歳かと思うと感慨深いです。
ちなみに娘のことを書いた一番最初の記事がこちらです。
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20060206/1139235470
早生まれの割には体格良かったものの、当時はまだ話す言葉も舌ったらずでとても甘えんぼさんでした。
それ以来、身長は40cm以上伸び、体重は…これは本人のために秘密にしておきます(笑)
小学生になってからの成長記録を見ると年平均5cmくらいずつ伸びていますが、これから成長期を迎えることを考えると、6年生か中1くらいには150台半ばの妻に追いつくんじゃないでしょうか。
それから中学年(3,4年)になってから女の子らしく?着る服はもちろんのこと、髪型とかお肌を気にするようになりました。
それなのに肌着がはみ出てることを指摘しても気にせず直さなかったり、無地柄だと後ろ前に着て気づかないなどまだまだお子様であります。
口はだいぶ達者になり、理屈に合わないことははっきりと言い返してきます。
感情的になる時は妻に似てきてるかなぁ。意地っ張りになるところとか。
あくまでも私が見たかぎりなんですが同年代の女子と比べても感情の起伏が激しく、自分を抑えるのが苦手かもしれない。*1
困っている子(たとえ嫌われている子でも)を見過ごさずに助けられる優しさや思いやりも持っているのですが、そこが意地悪な子につけ込まれることもあったりします。
これからは精神的に優しさと強さをバランスよく持てるようになればいいのですが。


休日に娘と一緒に出掛けたり遊んだりできるのはいつまでかなぁと前々から思ってはいるんですが、うちの場合は乳児の頃から二人で休日を過ごすことが多かったから、小学生の間くらいは付き合ってくれるかもしれない。
でも中学生になって行動範囲が広がると、もう距離を置かれるようになるでしょうね。寂しくなるけれど仕方ないことではありますな。

*1:自宅で親としているからそう見えるかもしれないだけで、よそのお宅ではまた外向きの顔をしているらしいが

8期・77冊目 『スペースオペラ大戦争』

スペースオペラ大戦争 (角川文庫 緑 377-22)

スペースオペラ大戦争 (角川文庫 緑 377-22)

豊田有恒氏の「大戦争」シリーズで未読が一冊あったことに気づきました。
今回はタイトル通り宇宙が舞台ですが、なんと時代を超えて古今東西の人物たちが暴れまくります。


死相が出て24時間以内に死ぬだろうと占われてしまった主人公は自暴自棄を起こした挙句にその通り事故で死んでしまうのですが、なぜか31世紀の地球に生まれ変わります。
その時代では宇宙に進出した人類が海老に似た異星人と遭遇した際に勃発した戦闘で軍隊が全滅。
残っているのは戦う意思も能力もない者ばかり。*1
地球の危機に瀕した人類の指導者らはタイムマシンを使って闘争心溢れる過去の英雄たち(特に非業の死に斃れた人物たち)を生き返らせて、代わりに戦ってもらおうと計画したわけです。
31世紀に集められた歴史上の人物たち。
日本の例で言えば、源為朝源義経楠木正成などの武将、高杉晋作を始めとする幕末の志士に新撰組赤穂浪士たち、それに明治〜昭和の戦争で散った軍人まで。
もちろん海外組もアレクサンダー大王を筆頭に名の知れた歴史人物がズラリ。
そんな中で歴史ジャーナリストの端くれであるだけで特に武力が優れているわけでもない平均的な日本人である主人公が選ばれたのはなぜか?
それはこたびの作戦は20世紀に出版された『スペースオペラ大戦争』(豊田有恒・著)というSF小説がヒントになっており、それに主人公がなんらかの関わりを持っているということで記録係として呼ばれたそうな。


かくして時代も場所もバラバラな人々が一挙に蘇生されたわけで、いきなり内輪揉めさえ始めてしまうほどでしたが31世紀の状況に次第に慣れてくるに従い、それぞれの出自を超えて地球を守るという大義名分のもと、協力しあうようになっていきます。
味方をまとめるには敵を作るのが一番とはよく言いますからね。
しかもこの異星人が人と似ても似つかぬグロテスクな身なりだったのが敵愾心を持つには好都だったりするわけで。
コンピュータに頼り切りで快適な生活を送っていた31世紀人に比べて、戦いの中に身を置き闘争本能が研ぎ澄まされていた過去人は最新のテクノロジーで作られた兵器さえも余裕で使いこなし、たちまち戦力として整っていくのです。
とはいえ、元の時代の装備にこだわったり馬や象を欲しがったりと難題も山積みで、蘇生組の中では最も31世紀に近い主人公は雑用係として奔走する羽目になって大変そう(笑)
かくして地域別に建造された宇宙戦艦群は地球を発ち、連合艦隊として敵惑星を目指すのです。*2
乾坤一擲の大作戦を指揮するはこれも蘇生した山本五十六
果たして異星人との決戦に勝利することができるのか!?*3


歴史とSFの融合というよりはそれぞれの美味しいところをつまみ取りしたような、あんまり深く考えずに軽く読める作品ですね。
逆にそのハチャメチャな展開は深く考えちゃ楽しめません(笑)
とはいえ、現代日本人を皮肉っている部分は刊行されて30年経っても通じてしまうところに視点の鋭さを感じました。


【おまけ】
パラレルワールド大戦争
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20090517/1242561409
『タイムスリップ大戦争
http://d.hatena.ne.jp/goldwell/20090807/1249656161

*1:現代日本で言えば自衛隊が全滅して外国の軍隊を前に民間人しかいない状況だろうか

*2:日本の宇宙戦艦が富士山と芸者をあしらった銭湯の壁画みたいなカラーリングというのが納得いかない。宇宙戦艦ヤマトにすればよかったのにね。でもクレームがくるか…

*3:山本五十六と聞くと真珠湾奇襲はまだしもその後のミッドウェー海戦を連想して不安になってしまったが

8期・75,76冊目 『ジーンズの少年十字軍(上・下)』

ジーンズの少年十字軍〈上〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈上〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈下〉 (岩波少年文庫)

ジーンズの少年十字軍〈下〉 (岩波少年文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
オランダの少年ドルフは、知りあいの博士が発明したタイムマシーンに乗って13世紀へ―。思いがけず彼は何千人もの子どもたちの真っただなかに巻きこまれてしまう。この大集団は、羊飼いの少年ニコラースの率いる少年十字軍だった!中学以上。金の石筆賞、ヨーロッパ歴史児童文学賞受賞作。

主人公の少年ドルフは父の友人が開発したというタイムマシンを見学している際に自ら人体実験を申し出て、13世紀頃のドイツへとタイムスリップしてしまいます。
旅の学生レオナルドとひょんなことで親しくなったりして中世を満喫していざ戻ろうとした時にとんだハプニングが。
現代に戻るには決められた時間・場所にいなければならないのですが、途中で大集団の子供の行列に巻き込まれてしまいます。
目の前にある約束の場所になかなか辿りつけずに行列の中でもがくうちに、たまたまその場所にいた少年がふっと消え去ったのを見てチャンスを逃したことを知る。
そのとんでもない行列(ケルンを発した少年十字軍と知る)を見て放っておけなくなって、友人になったばかりのレオナルドと共に旅することになります。
中世風にルドルフ・ファン・アムステルフェーンと名乗り、現代の知識を生かしての活躍が始まるのです。


少年十字軍とは羊飼いの少年ニコラース、それに二人の修道士に率いられて、出発地であるケルンから貴族の子弟が何人か付けられた他は地域の孤児や身分の低い子供らがちょっとした冒険気分で集まって8千人の規模に膨れ上がったとのこと。
エルサレムを解放せよとの神の声を聞いたというニコラースには奇跡を起こす力が備わっているので、イタリアのジェノヴァまで行ってモーゼの如く海を断ち切ってエルサレムへの道を開くという。
現代に生きるドルフにとっては信じがたい話ですが、科学の「か」の字も無くすべては神の思し召しというのがこの時代の常識。
早々にそういった時代感覚の壁にぶちあたるのも致し方ありません。
それでも統率も取れずに脱落者を出しながら無秩序な集団と化した少年十字軍の姿を見かねて、ドルフは現代人らしい合理性と積極さ・指導力を発揮し介入してゆく。
少年少女それぞれの能力に応じた役割分担とグループ分けなどを行い、次第に遠征軍らしく統制された集団に生まれ変わっていくさまが面白い。
実はこの時代に自己主張し命令を出すことができるのは貴族に限られるわけで、自然とドルフは貴族の子として影のリーダー的な立場にみなされるわけですね。
そして身分に関わらずに協力しあうことによって子供たちも生き生きとしていく。
そうなると面白くないのがニコラースと二人の修道士(実は偽物)。
牛車に乗りテントで過ごす彼らは具体的な計画も無ければ子供らのことなど何も考えてなく、衆望を集めたドルフと意見がぶつかるようになるわけです。
信仰心が何よりも大切なこの時代ではドルフの持つ合理性が時には神を恐れぬ悪魔的な行動として標的にもなる。
そうして途上で何度か危機的な状況に陥ってハラハラさせられるのですが、レオナルドや途中で加わったタテウス修道士ら友人の支援と機転をきかせて何とか乗り切っていきます。
大人でさえ悪魔を恐れる心理を逆に利用して、拉致された仲間を救う場面はとても愉快でしたね。


途中で人数が減るにしても十代前半から半ば程度の少年少女たち数千人の大集団がドイツ北部からアルプス山脈を越えてイタリアへと向かう。
無謀とも言えるこの試みは史実が元になっていることが驚きでもあります。*1
wikipedia:少年十字軍
現代のように整備された道路などなくアルプスでは道なき険しい山や谷を往く。
当然食料は自給自足で、病にかかってもろくな治療はできません。
自然の脅威だけでなく、時には途中の領主や農民が敵*2になることもある。
少年十字軍を襲う困難に苦心惨憺するドルフの気持ちが手に取るように感じます。
ジェノヴァに着いても奇跡など起きるわけなく、寸前で偽修道士の邪な目的に気付いたドルフたちはどうするのか?いったいドルフは現代に戻れることができるのか?
最後まで彼らの旅の行末が気になってしまいます。


対象中学生以上のティーン向けとして書かれたものなのですが、大人が読んでも充分に楽しめる内容でしたね。
娘が中学生になったら是非読ませてみたいと思いました。
ふと思ったのですが、時代に関わらず一地方から8千人もの子供がいなくなるって大変なことではないかと思うのです。
なんとなくハーメルンの笛吹男を思い出したのですが、一説によると関連あるみたいですね。

*1:確か騙されて奴隷として売られたという悲劇的顛末について記憶にあったけど、それはフランスの少年十字軍だったらしい

*2:数千人分の食料調達のために農地や湖水を荒らすから

8期・74冊目 『美しき凶器』

美しき凶器 (光文社文庫)

美しき凶器 (光文社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)
安生拓馬、丹羽潤也、日浦有介、佐倉翔子。かつて世界的に活躍したスポーツ選手だった彼らには、葬り去らなければならない過去があった。四人は唯一彼らの過去を知る仙堂之則を殺害し、いっさいのデータを消去。すべてはうまく運んだかに思われたが…。毒グモのように忍び寄る影が次々と彼らを襲った!迫りくる恐怖、衝撃の真相!俊英が贈る傑作サスペンス。

恩師を殺害した四人の元プロスポーツ選手を相手に復讐する謎の超人。
わかるのはわずかに日本語を理解する外国出身の長身女性であり、コードネームはタランチュラ。
狙われていることを知った四人の側も自身の生活を守るためにそれぞれ迎え撃つか逃げ切るか選択を迫られる・・・。


読み始めた当初はわりと単純なストーリーだな思ったました。
主人公は言葉を発しないものの、想像を絶する身体能力と目的のためには手段を択ばない冷酷さを兼ね備えていて、冒頭の殺人事件を追う警察から早々にマークされるも、人間離れした行動力によって捜査は後手後手に回ってしまう。
守る四人に狙うタランチュラ、それを追う警察という構図であり、ある程度先は読める展開です。

それが終盤にスポーツ医学界の異端者・仙堂之則の過去が明かされるに従い、人間心理の罪深さとタランチュラの哀しい宿命が巧妙にブレンドされたサスペンスとして読み応えを感じましたね。
タランチュラに対する戦闘力では一番有力と思われた人物が真っ先に消えて、意外な人物がどんでん返し。そして感情を持たない殺人マシーンの如き主人公の最期に一瞬の感情表現を見せたくだりにほろりとさせられます。
そのあたりの読者を翻弄させるさまはさすがこの著者だと思えましたね。
東野作品の中では知名度低く(?)*1、実はさほど期待していなかったのですが、良い意味で期待を裏切られた作品でした。

*1:主人公の異質さとスポーツ界のタブーを取り上げているだけに映像化しにくいのだろうな